第37話 気になったから。

 文化祭二日目。


 昨日は、海里が絡まれたこと以外何も異常事態は起こらなかった。


 快凪は『パフェの皿が何枚も割れたことが異常事態だろ!』とは言っていたけど。


 昨日と同じように、海里と文化祭デートをして、今度は海里の出るミスコンの時間になった。


 まあ、妬くだろうなとは思っているけど、海里がやりたいなら、応援する。


ーー


「次の方に映ります。────海里さん」


 海里はニコニコしながら、ステージに上がる。


 衣裳、可愛すぎね?


 ダメだ、ここにいる人全員落ちる。


 見せたくねーんだけど。


「可愛い海里がいっちばーんだよっ?」


 海里がウインク決めて可愛い子ぶって言う。


 はぁ、可愛すぎ。


 こういうとこもが好きなんだからしかたねーじゃん。


 そう思いつつ、海里の出番が終わるのを願う。


──俺は、ここにあいつがいることなんて知らなかった。


 もし、知っていたのなら、覚えていたのなら、俺はどうしていたのだろう。


ーー


 結果、もちろん海里はダントツで優勝して、喜んでいた。


 んで、午後になった。


「いらっしゃいませ。ご主人様」


 俺は、少し棒読みになったが、客の男に言う。


 海里は昨日の件があったから、快凪がいろいろ言って、女だけの担当にしてもらった。


 俺が快凪の後ろで圧を出していたのもあっただろうけど。


 男は笑いながら、席に着いた。


 あー、確か、快凪の知り合いだっけ。


 顔に見覚えがありながら、誰かが思い出せない。


「ご注文はどうなさいますか?」


 取り敢えず、用を終わらせてから、快凪に聞けばいいだろ。


「あー、この抹茶プリンでお願いします」


 抹茶か、、。


 あんまり人気なかったような気もするけどな。


 俺は快凪のいるところまで向かった。


「快凪、十番席に抹茶プリンな。んで、知り合いか?」


「まあ、覚えていないか。...今気にするな」


 覚えていない?


 俺が?


 快凪は切羽詰まった顔をしながら、手を動かしていた。


 快凪は、暗い表情で、なにかを考えているようだった。


 そして、朔の背中をそっと見つめていた。


 こいつ、朔のことが好きなのか?


 そう思ったら納得がいった。


 俺、思っている以上に鈍いのかもな。


「ふーん。頼れるやつ居ないなら、俺に相談しろよ?」


 俺はそう言いながら、快凪を軽く小突いく。


「いって。...はいはい、分かったよ」


 快凪の返事を聞いて、俺はさっきの男の方を見た。


 男の視線は、、海里の方を見ているのか?


 男の表情は何かを企んでいるような悪い顔だった。


 俺は『海里を見るな』という思いを込めて睨んだ。

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