第36話 妬いたから。

「海里、隙ありすぎ。そんな服装で他の男に行かないでよ」


 俺は海里の前で弱音を吐く。


 分かりやすい嫉妬。


 そんなの分かっていても、海里のことになった俺は止まれない。


「え? らいくん、嫉妬?」


「そうだよ。海里がかわい過ぎるんだよ。俺以外に見せたくない」


 俺は海里が絡まれている光景を思い出して、独占欲を吐く。


「ら、らいくん? 僕の彼氏はらいくんだよ?」


 海里がコテッと顔を横にして、言う。


「分かってる。でも、海里が絡まれている光景を見たら、俺のいないところで勝手にいなくならないかなって、どうしても、思ってしまうんだよっ」


 海里に言いたいことをぶちまけてしまう。


 惨めだって分かっていても、俺の心が荒れている。


「へ? ん」


 海里が戸惑った表情でありながらも、少し嬉しそうにする。


「海里?」


 俺は優しく海里の頬を撫でながら聞く。


「あのさ、らいくんが嫉妬してくれるの、嬉しいな~って。いつも僕だけがドキドキしているみたいだったから」


 そんな海里の言葉に驚く。


 ドキドキなんて、海里といればいつもしているのに。


 海里が入れば俺の心臓の音はずっとうるさい。


 海里が夢に出てくるたびに、海里が俺に笑いかけるたびに。


 俺の心は海里染まる。


 海里以外なんて考えられないくらいに。


「そうなの? 海里は俺だけのもので居てくれる?」


 俺は弱っているからか、そんなことを言ってしまう。


「うん。海里はらいくんのものだよ。だから、らいくんも僕のもの、だね?」


 海里は小悪魔な瞳で見つめてくる。


「うん」


 俺は海里の前だけで弱みを出せるから。


──海里が好きでしかたがないから。


「へへ。らいくん、大好き」


 海里が笑いながら言う。


「俺は、海里を愛している」


 俺は余裕そうに丁寧に言う。


 海里ニコニコで俺に抱きつく。


 ...そんなことされると、俺、ヤバイんだけど。


 そう思いつつも、海里の後ろに手を回そうとした。


「おーい、お二人さん。そろそろ接客に戻ってくれない?」


 快凪の声にハッとさせられ、海里はバッと俺から手を離す。


「いいとこだったのに~」


 そう快凪に言葉を返す。


 快凪は苦笑していた。


「だから、話のキリの良さそうなところでちゃんと止めたろ」


 その言葉に、ある一つのことが浮かんだ。


「もしかして、快凪、、見ていた?」


 恐る恐る聞くと快凪から満面の笑顔で返事が返ってきた。


「もちろん」


「「さいっあく」」


 俺と海里の言葉がハモった。


「じゃあ、戻ってくださいなー」


 快凪はそんなことを言って、調理場に戻った。

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