第9話 壊れたから。

「ねえ、海里。もしかして、藍斗先生と兄弟だったりする?」


 朔くんのこの一言が僕を痛め付ける最初の一声だった。


「なんで?」


 内心驚きながらも、答える。


「ん~。雰囲気と藍斗先生の反応」


 お兄ちゃん、何かしたの?


 お兄ちゃん、天然で変なところ真面目だから、何したか知れたもんじゃない。


「こっち来て」


 僕はそう言って、朔くんを隣の使っていない器具室につれていく。


「ごめんね。教室で聞くべきじゃんかった」


「...さっきの答えは、そうだよ。誰にも言わないでね?」


「やっぱり。そりゃ言わないよ。でも、なんで教えてくれたの?言わないかと思ってた」


「だって、朔くんなら言わないでしょ。信頼してるから」


「...そ、そっか」


「うん。いつも優しいもん」


「...


「えっ、なんか言った? 聞こえんかった」


「あっ、って」


 朔くんは窓を見ていた。


「ん~」


「なら、質問なんだけど、藍斗先生って、いたことある?」


「あるよ。元カノが二人。どっちとも半年くらい付き合っていたかな」


「そう、なんだ」


 朔くんは悲しそうな顔をしていた。


 藍斗先生お兄ちゃんとも仲良いし、言わないよね。


 たぶん、藍斗先生お兄ちゃんのこと好きだし。


 このときは信頼していたのに、なんでなの?


ーー


 いつもの帰り道、いつもと様子の違うらいくんと歩いていたら、らいくんの一声が僕を壊した。


「あのさ、海里。俺、朔と付き合うことになったから」


──嫌だ。


 えっ。


「なんで?」


「えっと、朔に告白されてさ、まあいいかなって」


 どういうこと?


 この言葉が僕を締め付けた。


「そう、なんだ。おめでとう」


 そう言って、僕は家に逃げた。


「ヒック、ヒックッ。なんで、なの? 僕が一番らいくんのこと、、好きなのに」


 この夜は今までで一番泣いた。


 食欲も沸かないから、部屋に閉じこもって、布団にくるまって一日中泣いていた。


ーー


 朔くん、藍斗先生お兄ちゃんのこと好きなんだと思っていた。


 なんで、お兄ちゃんの行動で朔くんは動かされていたの?


 うそだったの?


 朔くんがお兄ちゃんのこと好きなんだと思ったから、教えたのに。


 らいくん、流架くんのことはいいの?


 僕が告白したら、僕を選んでくれた?


 らいくんのこと僕が一番知っていると思っていたのに。


──らいくん、大好き。


 届かない言葉をいくつも僕の頭の中に並べた。


 僕は朔くんへの嫉妬と憎悪。


 それとらいくんへの思いで壊れそうだった。


──もう、やだ。


ーー


 体温 38.6℃


 翌日、僕は熱を出した。

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