第5話 知っていたから。

「今日から、転校生がこのクラスに来ます」


 藍斗先生お兄ちゃんが言った。


 思ったのは、やっぱり...。


 それだけだった。


 嫌な気持ちと、喜びたい気持ちが矛盾する。


 クラスのみんなが盛り上げている。


「じゃあ、入って下さーい」


 藍斗先生お兄ちゃんの言葉で流架くんが入ってきた。


「流架くん、自己紹介頼めるかな?」


「はい。東京から引っ越してきました。流架です。よろしくお願いしまーす」


「よろ~」


 快凪くんの声が合図のようにみんなも騒いでいった。


 このクラスに馴染んでて良かった。


「あっ、流架くんはあそこの学級委員長の隣ね」


 学級委員長は快凪くん。


 快凪くんのコミュ力にかかればすぐ仲良くなれるだろうな。


 もう早速話しているし。


 ちなみに僕の隣の人は普段寝ているけど、快凪くんの好きな人。


 藍斗先生お兄ちゃんがいるときだけ起きている。


 たぶん、藍斗先生お兄ちゃんのことが好きなんだと思う。


 わかんないけどね。


 朔くんは、いつもおっとりしているし、話しやすいんだよね。


 あっ、名前は“さく”っていうかっこいい漢字の名前なんだよ!


──キーンコーンカーンコーン


「それでは、朝学活の時間を終わります」


 日直の感情のこもっていない声が響いた。


「「「終わりまーす」」」


 みんなの声が聞こえて、僕は流架くんの席快凪くんの隣の席に向かった。


「流架く~ん、同じクラスだね!」


 嬉しい気持ちもあるから、流架くんの前では笑顔でいる気持ちを偽る


「うん。やったね~」


「お前ら知り合いなん?」


「うん。幼なじみ」


 快凪くんの問いに僕は答える。


「そうなんか」


「雷斗もだけど」


「へえ~」


 快凪くんと流架くんはもう仲良くなってる。


 快凪くんはコミュ力の王者だね~。


「海里、テストどこ出る~?」


「今ごろ~? ここら辺じゃない?」


 いつものらいくんの質問に笑いながら答える。


「ありがと~。流架も受けんの? 次、テストだけど」


「受けない~。先生が今日はやらなくてもいいよって」


「いいな~」


 僕に話をふったのは、流架くんに話しかけるためだったのかな。


 むなしい気持ちで心がいっぱいになる。


 それが嫌だ。


「ねえ、海里。地理の教科書忘れたから、見せてくれない?」


「いいよ~」


 朔くんが来ると快凪くんは嬉しそう。


 僕はいつも高望みしているらいくんと話すだけじゃ物足りないって思ってしまうのかな。


「朔、今日は寝んなよ? 授業のときの先生、いつも優しいのに怖いからさ」


「ん~。寝ないようにがんばるね~」


「お前はがんばるだけじゃ、英語藍斗先生がいるとき以外はすぐ寝るだろ」


「えっ、うっ、まあね」


 やっぱり朔くんは藍斗先生お兄ちゃんのことが好きなんだな。


 わかってしまう僕が嫌いだ。

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