第5話:女神の耕し①

「それなら私、手伝います!」

「「「は?」」」

 

 ミーミルさんとセルジュさんとナノンさんは同時にぽかんとした顔で私を見た。

 

「な、な、なりません! 女神様に畑仕事など!!」


 ナノンさんが顔を真っ青にして止める。


「私、農業のプロなので任せてください! しかも玉ねぎ農家だし! まさに適材適所!」

「え、そうなんですか? 鳩子様は女神様じゃ……?」

「女神って、この国を救う役割なんでしょう? 私に出来ることって言ったら農業しかないの。その力が今、役に立つなら私を使うタイミングじゃないですか」

「理屈はそうかもしれませんが、なんかイメージと違うというか……もっとこう女神様ってなんだろ、こう……えーとぉ……」


 手でロクロを回す動きをしながらナノンさんは困惑していた。なんとなく言わんとしていることはわかるけれど、きっとそれじゃこの国は救えない。例え異世界でも現実を見なきゃ。


「まずは土作りからだなぁ……石を取り除かなきゃだし雑草もすごい」


 畑を見渡すと土の中に小石がごろごろと埋まっていて、雑草も生えっぱなしだった。野菜を育てる基本的な土壌が作られていない。この土じゃ"トウ立ち"以前に玉ねぎがちゃんと育たないだろう。まずは収穫量を増やさないと話にならない。それにはいい土作りが不可欠だ。それも、猛スピードで。少人数で。


「ミーミルさん、さっき移動魔法が使えるって言ってましたよね。この辺りの地面を掘り起こすこと出来ますか?」


 私は何もまだ埋めていない空地を指さす。


「土を動かすというイメージでやれば多分いけると思います!」


 ミーミルさんは地面へと両手をかざす。ぼそぼそと呪文のような言葉を唱えた後、「はあぁっ!」と気合こもった声をあげた。すると、地面がボコボコボコッと隆起した。すごい! まさにシャベルで土を天地返ししたのと同じだ! これならすぐに柔らかい土作りが出来そう。私は思わず拍手をした。


「いいですね! 次は盛り上がった土の中の石を取り除いてください!」

「はい!」

「セルジュさんは藁を持ってきてもらえませんか? なるべく沢山お願いします!」

「…………か、かしこまりました」

「あ、あと、お城では馬とか牛とか飼ってません? 肥料に使うフンが欲しいです!」

「どちらもおります! 私が手配して参ります!」


 三人はてきぱきと私の指示をこなしてくれる。もし元の世界に戻ったらうちの畑も手伝ってくれないかな。


「そうだ……収穫した玉ねぎってどこに保存していますか?」

「貯蔵庫です。あそこの木の小屋のところにございます!」


 ミーミルさんが指さした小屋へ行き、中へと入る。収穫された野菜が貯蔵されていた。


「うーん……やっぱり」


 貯蔵された野菜は痛んでいた。恐らく野菜の適切な保存方法も知らないのだろう。小屋の窓側に置いているせいで日に当たって駄目になっている野菜もあった。

「この辺りはまだ大丈夫そうだな……よいしょっとぉ!」


玉ねぎの入った木箱を持ち上げて外に出す。10個ほど取り出し葉の根元を束ねて小屋にあった紐糸で結ぶ。


「はぁ、はぁ……鳩子様、石の除去終わりました。あ、それは何をなさっているんですか?」


「玉ねぎを収穫した後はまずしっかり乾燥させて、そのあと風通しの良い場所で吊るして貯蔵するんです。収穫したての玉ねぎは水分量が多いから乾燥させないと腐ってしまうの」


 手伝いますと言ってミーミルさんも一緒に玉ねぎを束ねていく。


「幸い、この木箱の玉ねぎは乾燥はまぁまぁ出来ているみたいだから後は吊るして追熟させましょう。こうしておけば賞味期限も長くなるし、甘みが増しておいしくなりますよ」

「なるほど……」

「でも、出来れば吊るすのは密封された場所じゃない方がいいんだよなぁ……この小屋だと湿度高そうだし熱もこもりそうだからあんま――」


「はあぁっ!!!!」


 ミーミルさんが木の枝を魔法で運んで、あっという間に簡易的な吊るし場を作ってくれた。しかも屋根付き。


「すごい! そうです、まさにこういうの!! 雨よけもあって素晴らしい!!」

「えへへ……恐縮でございます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る