第4話:王家の畑②

「ああ、だめだ。こっちも"トウ立ち"してる……植え付けが早かったのかなぁ」


 畑に入らせてもらい、玉ねぎをひとつ、ひとつ確認していく。ほとんど、茎から花のつぼみが上がってしまっていた。


「ミーミルさん、畑に植えている苗はいつもどれぐらいの大きさなんですか?」

「ええと……セルジュ、どれぐらいだっけ?」

「…………見てないから分かんない」

「だよなぁ。魔法で一気に植えるから苗の大きさなんてちゃんと見ないし」

「見てない!?  はぁ!?」

「しかもこんな風に"トウ立ち"するまで放っておいたということは植えた後もちゃんと見てないってこと!?」

「あ、あの鳩子様……! "トウ立ち"とはなんでしょうか? 問題があるものですか……?」


 ナノンさんが、私を落ち着かせようと質問する。私の形相にセルジュさんとミーミルさん完全に萎縮してしまい、ナノンさんの後ろに隠れてしまった。我に返り、急に熱くなってごめんなさいと謝り説明を続けた。


「"トウ立ち"は、こんな風に玉ねぎの苗から花のつぼみが上にあがってくることを言います」

「玉ねぎはつぼみをつけた時点ですぐに摘み取らないといけないの。花が咲くと球が大きく育たないし、硬くなってしまうから」

「知ってたかセルジュ……?」

「…………いや。硬いなとは思っていたけれどこういう野菜なんだと思ってた」

「別に食べられないわけではないんですか?」

「そうだけど……あんまり美味しくないと思う」

「うっ……そういわれると、自分いつも我慢して食べてました。本当の玉ねぎは全然違う味なのでしょうか?」

「ぜんっぜん違います!!」


 ああ、うちの玉ねぎを食べてもらいたい。新玉ねぎでもないのに生でも食べられるぐらい瑞々しいんだ。つなぎのポケットにねじ込んでくれば良かったぁ。


「あの、さっきからずっと気になっていたのですが、この国では農業知識がある方が作業をしているわけではないのですか? どうして農家の人ではなく魔法使いが畑の管理を?」


私の問いかけに、ミーミルさんたちは顔を見合わせて気まずそうにしている。


「……?」



*********************



「殿下、戦況のご報告です」


 戦略の間で、光の騎士団の副団長・ガユンがバルドールと会議をしていた。


「火の国は大地の国の最南端フムスの村をほぼ制圧。さらに進撃を続けております。援軍に入った我が国の騎士たちの被害も甚大。負傷者も多く、現在撤退中とのこと」

「援軍長に神族一の名射手・バーリをおいても駄目だったということか……」


 バルドールは目をつぶり、眉間の皺が濃くなった。


「バーリ様も戦いで負傷された模様でございます……命に別条はないと報告を受けておりますが怪我の状態は分かっておりません」

「……そうか。ガユン、火の国と我が国の戦力差は現在どのような状況だ?」

「火の国は30万、我が国は先日の戦いにより17万の戦力を切る状況でございます」

「そんなに開いてしまっているのか……」

「光の騎士たちの体力と魔力の回復が追い付かない状況です。負傷者があまりに多く、回復魔法を持つ魔導士たちは一夜も休めておらず、こちらも限界に近いと報告を受けております」

「……分かった。まずは戻ってくる騎士たちと魔導士たちの休養と治療を最優先で行ってくれ。食事の手配も頼む」

「……」

「どうした……?」

「食糧庫も、そろそろ限界が近いようです。なんとかやりくりをしてくれてはおりますが……」

「……問題は山積だな。食料については精霊族へ支援を頼もう。あとで誰か使いの者を私の部屋へ呼んでくれないか」

「かしこまりました」


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