第4話:王家の畑①
「敷地の中をご案内いたします」
結婚の儀の翌日、ナノンさんがお城を案内してくれた。
「あそこは何ですか?」
城内を一通り案内してもらった後、窓から見える広い草原地帯が気になった。よく見ると花のようなものがいくつも咲いている。
「あちらは畑になります。城内の食事で使う食材や民への配給物はあそこで育てていますが、鳩子様が行かれることはあまりな――」
「見に行きたいです!!」
食い気味でナノンさんにお願いをする。農家として畑とあれば見に行かないわけにはいかない。しかも、異世界の畑って一体どんなものだろう。どんな野菜を育てているのか俄然興味が沸く。
「い、いけません! お召し物が汚れます」
「服が汚れるなんて別にそんな大した話じゃ……」
「私が怒られてしまいます……どうかお許しください」
うーん……ナノンさんを困らせたいわけじゃない。でも、やっぱり畑は見たい。どうしたものかと考えていたら、思い出した。そうだ、あれ。あれがあるじゃないか!
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「鳩子様、本当にちょっと見るだけですよ……?」
「分かってますって!」
ナノンさんの後を意気揚々とついていく。この世界に来た時に着ていたつなぎとゴム長靴に着替えて畑へと向かう。ああ、身体が軽い。歩きやすい。心が落ち着く。
「セルジュ様、ミーミル様。お疲れ様でございます」
畑の入り口で、ナノンさんが二人の男性に話しかける。一人は白いローブを頭まで被り、口元以外は何も見えない。まるで子どもがお化けの仮装をした時のような格好だ。
もう一人は、同じくローブを着ているが顔は見えている。ものすごく背が高い男性だった。
「鳩子様、こちらは白魔導士のセルジュ様とミーミル様でございます」
「………………………………」
「あ、あの」
「あ! 申し訳ございません! こいつ声がとても小さくて! セルジュ、ほら、もっと声はって!」
「いえ! 大丈夫です! 鳩子です……ええと、はじめまして」
セルジュさんは頭まですっぽりとローブを被っているせいもあってか、視線も合わない。
「私はミーミルです! 鳩子様、お会いできて光栄です!」
もう一人、ミーミルさんは普通に話してくれる方のようだ。
「畑までご案内します」
門をくぐり、畑の中へと入る。わくわくする。一体どんな野菜を育てているのだろう。
「ここはもうすぐ収穫のた――」
「ぎゃーーーーーーー!!!!」
見慣れた野菜の、見慣れない花を見た瞬間、叫び声をあげてしまった。
「鳩子様どうなさいました!?」
「こ、これ! たまねぎの花じゃないですか!!」
畑一面、あいつが咲いていた。天敵のたまねぎの花が。
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