第2話:救国の女神③

「小田鳩子……どうして私の名前が……」


 読めない文字で書かれた本に、唯一漢字で自分の名前が記されていた。


「読めるのか……?」


 ぽつりと自分の名前を口にした途端、バルドールさんが驚いた顔で私を見た。


「おぉ! やはりあなたこそ我が国を救う女神様だ!」


 ヘーニルさんは興奮気味に喜んでいる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「確かに私の名前がここに書かれてはいます……! だけど、私は女神じゃないし、日本人で、一般市民で、だからその、これは何かの間違いです!」


 混乱で頭がうまく働かない。

 けれど、誤解を解かなければと必死だった。


「しかし、あなたは確かに空から降ってきたのです。現に、我々には読めない文字をいとも簡単に読んでみせた」

「ここまでどうやって来たのか私自身何も覚えていません。私は自分の家の畑で気を失って、目が覚めたらこの部屋にいたんです」


「記憶を失っているだけだろうか……?」

「頭に怪我をされていたのでその可能性は高いかと……」


 バルドールさんとヘーニルさんは顔を突き合わせて困惑している。


「違う……本当に違うの……!!」


 頭がズキズキと痛む。

 どうしよう……どうしたらわかってもらえるの。


「……今日はもうお休みください。身体にさわる」


 私の様子を見て、バルドールさんは椅子の背もたれに掛けてあったブランケットを私の背中に掛けてくれた。


「もういいだろう。こんな状況では流石に今日中にとはいかない」

「そうですね……お目覚めになられたなら早急にと思いましたが儀式は後日と致しましょう。後ほど着替えを持ってこさせます」

「しかし、殿下。そう猶予はありません。女神様の存在は他の者にも知れ渡っております」

「分かっている」


 痛みに耐えながら二人の会話から聞こえてくる言葉が気になった。


「あの……儀式って何ですか……?」


 バルトールさんは少し考え込み、私をまっすぐに見据えて言った。


 「結婚の儀だ。私と、あなたの」

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