第2話:救国の女神②

「落ち着かれたか? 良かったらこれを」

「あ、はい……どうも」


 男性から水を受け取る。一口飲んで、気持ちを落ち着かせるために軽く息を吐く。


「あの……さっきはすみません。大きな声なんか出して……」

「いや、当然だ。怖い思いをさせてすまなかった」


 男性はぺこりと私に頭を下げた。つられて私もぺこりとする。


 あまりにも突然なことで、さっきは気づかなかったが全裸の男性はよくよくみれば下にはタオルのようなものを巻いていた。

 だからセーフという訳ではないが、自分も裸だったこともあり襲われるのではないかと勘違いして近くにあった枕や本を投げつけてしまった。

 泣きながら抵抗する私を宥め、着替えてくるといい男性は一度部屋を出た。


 その間、メイドのような女性が私の着替えを準備してくれた。

 白いワンピース、というよりもまるでウェディングドレスのような、普段着にしては随分と変わったデザインだったが、裸よりはましなのでありがたく受け取った。


 着替え終わったタイミングで、ノックが聞こえた。さっきの男性が服に着替えて部屋へと戻ってきた。


「あの、さっきどこかぶつけませんでしたか? 枕とか本とか投げつけちゃったから」

「大丈夫だ。それよりも本当にすまなかった。シャワーを浴びていたところにあなたが目覚めたとヘーニルから報告を受けたものだからつい慌ててしまった。無礼を許してほしい」


 男性の後ろにいる、目が覚めた時に最初に会った男性が私に向かって笑顔を向けておじぎをする。この人の名前のことなのだろう。


「私の名は、バルドールだ」


 ヘーニルにバルドール……?

 外国人のような名前……ということは、


「あの……やっぱりここは地獄なんですか?」


 5秒ぐらい沈黙の後に、「ぷ」と誰かが吹き出す音が聞こえた。後ろに立っていたヘーニルさんだった。

 バルドールさんがコホンッと咳払いをして、口を開いた。


「地獄、と呼ぶような状況ではまだないと思っているが、女神様にはそう見えるのかもしれないな」

「しかし、我々全員まだ生きている。生きている限り希望はある」


 生きている……そうか、私、助かったんだ。


「あ、あなたが私を助けてくれたんですか? でも、うちの畑にどうやって……」

「畑……?」

「女神様は空から降ってきたのですよ。まさに予言書の通りに」


ヘーニルさんが私に声を掛ける。

手には分厚い本を持っていて、ページをめくり読み上げていく。


「――女神降臨の訓。東の空より祝福と共に舞い降りし乙女がひとり。異国の衣を身にまといしその乙女は、光国の王の妻となり、世界に平和を産み落とすだろう」


「乙女の名をここに記さん。名は――」

「名は――」

「えーと……?」


 ヘーニルさんはページに顔をぐっと近づける。


「もったいぶらずに早く言わないか」

「何て書いてあるか読めないんですよ! ここだけ知らない文字で書かれてるし!」


 ほら!と、本を見開いて私たちに見せる。


「小田……鳩子……なんで」


 英語の筆記体のような文字に続いて、はっきりと漢字で書かれていた。


 私の氏名が。

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