第1話:小田農園③

 深夜一時を過ぎていた。

 雨と風がうるさいせいもあるけれど、このまま何もしないで朝を迎えて畑は本当に大丈夫かと心配で眠れずにいた。


「はぁ……この雨で畑が池になってないかなぁ」


 部屋の窓から外の様子を伺う。横殴りの雨が窓ガラスを叩きつけていて何もみえない。洗車中の車の中にいるような気分だ。


「やっぱりビニールトンネルも設置すれば良かったかなぁ……」


 ビニールトンネルは畑への雨の侵入を防ぐ効果があるが、風の抵抗を受けやすいので強風だと飛ばされる心配があった。今回、畑には防風シートだけ敷いてきたけど、この雨と風の強さではあまり効果がなかったかもしれない。


「……うん、やっぱりちょっと見に行こう」


 パジャマから作業着のつなぎに着替えて、一階に降りる。

 リビングの灯りがついていて、深夜の通販番組の声がかすかに聞こえる。


「お母さん、私ちょっと畑の様子見にい――」


 ソファの上で母は眠っていた。

 そっと近づき、リモコンでテレビの電源を消す。ふと、テーブルに広げられた地元の新聞が目に入った。



『地熱開発による有害物質流出問題から三年。●▼■地区の農業用水と土壌、調査後初めて国の基準を下回る』


『農産物の出荷制限解除。しかし、調査精度を不安視する消費者の声』


『県知事が地元の野菜を食べて安全性をアピール』



 新聞の見出しに、思わず深いため息が出た。


 眠る母の顔を見る。

 痩せた頬に心労が現れていた。切なくて思わず抱きしめたくなったが、傍にあるブランケットをとり、抱きしめる代わりに身体に掛けた。


 玄関で長靴を履き、そっと引き戸を開いた。


「うわっぷ!」


 途端に突風と雨が部屋の中に入ってくる。慌てて外に出て玄関を閉め、防水キャップを被る。懐中電灯をつけて急いで畑へと向かった。

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