3話 身体測定(No.263 柳沼幸)
ピーンポーンパーンポーンというチャイムの音。
放送
「皆さん、おはようございます。明日の午前中は、全学年身体測定となっております。半そでジャージ、半ズボンジャージを忘れないよう、お気を付けください。以上、放送部からのお知らせでした」
場所は1年1組。柳沼幸、机に突っ伏している。
高校生活が始まって、3日目。
幸
「・・・・・だっる」
結音
「お前が身体測定の度に零す言葉、それは! だるい!!」
幸
「何なんだよ? 変声期測定とか、ないよね?」
結音
「あるわけないだろ。お前だけだよ、そんなに身体測定に固執してるの」
幸
「固執するのは、当たり前だろ! なに? 全学年身体測定とか! 俺、辱めを受けるってこと・・・・? 全学年の人に、羞恥を振り撒くってこと・・・?」
結音
「お前だけだって、そんな風に考えてるの。中3の時よりかは、成長してるんじゃないの?」
幸
「してねえよ・・・・いつになったら結音を超せるの?」
結音
「あたしそんな、高い方じゃないよ」
幸
「なんで、奏に高身長全部持ってかれるの?」
結音
「あたしに嘆くな。遺伝に嘆け。奏は異次元だから。声も低いし」
幸
「その話を・・・・口に出すなあああ」
結音
「いや・・・・お前な。さっき自分で変声期がどうのこうの言ってただろ」
幸
「・・・・うう」
奏、7組から1組にやってくる。奏、ポッキーを口にくわえたまま。
奏
「あ、あいつ」
晴空
「え、どの人どの人? え! 可愛い!」
結音
「奏じゃん。どうしたの、奏」
奏
「双子の兄者を7組の友達に紹介しに来たまで」
幸、奏に近寄る。
幸
「え? 明日の身体測定の話を聞いて、ちっちゃい俺をいじりに来たわけ?」
奏
「おお」
幸
「お前なぁ・・・・・」
奏
「揶揄ったらこうやって怒る」
晴空
「なんか可愛い!」
幸
「なんなんだよ! やめろ! 俺は可愛いんじゃない!!」
結音
「(溜息をつきながら)この感じだからからかわれるんだよ、相変わらずだな」
翌日。身体測定の時間。
幸、あからさまに不機嫌な様子。
光
「じゃあ、出席番号順に班に分けたから、その班ごとに、順番に回って行けよ~」
1年1組メンバー、次々に班に分かれていく。
爽
「柳沼くん~、行こうよ・・・・って、何だか表情怖い!」
光
「おい柳沼。機嫌を戻せ。初日から元気にやってたじゃないか」
幸
「何で・・・・全学年身体測定なのか、意味不なんだけど」
爽
「可愛いのも愛嬌!」
幸
「可愛いって言うな!」
爽
「ひぃっ、ごめん」
光
「さっさと行ってくれお前ら」
爽
「オーロラ先生すみません!」
幸の班、身長を図りにアリーナへ。
爽
「うわあ・・・・結構人いるなあ」
暁
「さすが大規模校」
教師A
「はい・・・1年5組1番相田くん、167.3cm!」
海
「あ、身長言われるんだ」
幸
「何それ・・・晒されんの?」
聡瑠
「そのようだねえ」
幸、顔が青ざめる。
爽
「柳沼くん、そこまで顔強張らせなくても、いいと思うよ?」
幸
「俺は身体測定が昔から嫌いなの! ちっちゃいから」
暁
「ちっちゃくて可愛いのもいいと思うけどね」
幸
「可愛いって言うな!」
暁
「ごめんっ」
幸
「とりあえず、俺はちっちゃくて可愛いのが嫌なの!」
海
「まあ、人の感じ方はそれぞれだしね」
聡瑠
「進んできてるよ~列」
海
「とりま、前に進むか」
身長測定の列、前に進む。聡瑠の順番になる。
聡瑠、班の名簿を差し出す。
教師A
「1年1組35番、宮本聡瑠くんですね」
聡瑠
「はいぃ」
教師A
「上履きと靴下を脱いで、台に上がってください」
聡瑠、身長測定台に乗る。
暁
「宮本くん、結構高い」
海
「だよね」
教師A
「宮本くん、172.4cm!」
幸、失望の表情。
聡瑠
「わぁ~結構伸びてた~」
教師A
「次、36番、柳沼幸くん」
幸
「・・・・はい」
幸、身長測定台に乗る。渋々とした顔つきで。
教師A
「柳沼くん、153.4cm!」
幸、眉間に皺を寄せる。
幸、舌打ちをする。
幸の班、体重、視力、聴力を測り終え、教室へ。
暁
「柳沼く~ん、元気出してよ~」
幸
「何で双子の妹は声も低くて身長は165以上あるの。おかしいよね、遺伝ってこんなにアホらしいものだっけ」
海
「でも、俺たちじゃ出せない綺麗な声が出せるし、小さい分、いろいろ小回りきくし。いいところはいっぱいあると思うよ、柳沼くん」
爽
「そうそう!」
幸
「う~ん・・・・」
幸たち、教室に戻ってくる。
結音
「よ、幸。あたしは157.7cm。四捨五入すれば158。お前は?」
幸
「ふんっ! 153.4だよ!!(結音を睨みつけながら)」
結音
「ほんと、変わんないなあ。ごめんね渡辺くんたち、こいつぼやいてたでしょ」
爽
「俺たちは全然いいよ」
幸
「もう! もう高校生だよ?? 150cm台卒業したいよーー!」
幸のもとに、陽仁が近づいてくる。
陽仁
「やあ、柳沼くん」
幸
「あ・・・・確か、星、陽仁くん」
陽仁
「身長が小さいことで悩んでいるようだね」
幸
「ちょ、ド直球!!」
陽仁
「そんなに思い悩むことではないよ。僕も、150cm台。159.3cmだから」
幸
「え・・・・星くんも?」
真紘
「僕も」
幸
「え、深谷くんも!? ・・・・確かにそんな身長高くない」
真紘
「僕は154.4だよ」
幸
「星くん、深谷くん・・・」
海
「良かったじゃん、ミニマム仲間がいて!」
暁
「小さいは小さいで需要あるし! てか何だか愛らしいのは小さい人かも!」
聡瑠
「愛らしいのはいいことだよ~」
爽
「そうそ! 俺も同意見!」
幸
「みんな・・・・・」
幸、拳を握る。
幸
「よし! ちっちゃいし声も高いけど、俺は俺で! そういうことだよね!」
結音、海、暁、聡瑠、爽、陽仁、真紘、笑顔。
光
「なんだか一件落着したようだな」
爽
「オーロラ先生!」
光
「柳沼、なんか呼ばれてるぞ」
幸
「あ、はい!」
幸、扉の入り口を見る。そこには双子の妹、奏がいる。
幸、顔をしかめる。
幸、奏のもとに近づく。
幸
「なに」
奏
「私、身長、168.4」
幸
「お前の成長期なんて終わってしまえ! そいで7組に戻れ!」
(終わり)
登場人物
柳沼幸(やぎぬま みゆき) 高1(98期生1年1組)
宮口結音(みやぐち ゆね) 高1(98期生1年1組)
京極光(きょうごく ひかり)言の葉高校物理教師、1年1組担任 26歳
98期生1年1組
深谷真紘(ふかや まひろ)
星陽仁(ほし はると)
宮本聡瑠(みやもと さとる)
山羽海(やまは うみ)
湯崎暁(ゆざき あかつき)
渡辺爽(わたなべ そう)
98期生1年7組
柳沼奏(やぎぬま かなで)
村井晴空(むらい せいら)
教師A
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