2話 未来は彼方まで(No.260 諸塚未来)

未来(心の声)

「今日、私は、県立言の葉高校に、入学する」


 未来、昇降口で靴を履き替え、1年2組(4階)に進む。


3年生A

「こんにちは。出席番号とお名前をお願いします」


未来

「38番、諸塚未来です」


3年生A

「諸塚さんですね。ご入学、おめでとうございます。教室に入り、しばらくお待ちください」


未来

「はい。わかりました」


 未来、教室に入り、38番の席に座る。


未来(心の声)

「窓辺の席。ちょうど、日当たりもいい。・・・・・あれ」


 ボリューム感のあるお下げ髪の少女が、教室に入ってくる。


未来(心の声)

「あ、あの子」


 ボリューム感のあるお下げ髪の少女、6番の席に座る。


未来(心の声)

「永平寺、さん・・・・・」


(未来の中学時代の回想)


 未来、体育の授業中。ダンスのグループを組んでいる。


未来(心の声)

「ああ・・・・またひとりぼっちだ。最悪・・・・ダンスとか、やりたくないんだけど」


体育教師

「あ、ちょっとちょっと! 諸塚さんが余ってるでしょう??」


未来

「(肩を震わせる)」


体育教師

「諸塚さんも入れてあげなさい! 入れてあげてください。可哀そうでしょう??」


 周囲の同級生たち、顔をしかめる。


未来(心の声)

「はあ・・・・別に、可哀そうなんかじゃないし。こんな形で入れられても・・・嬉しくない」


 未来、体育を終え、教室に戻る。機嫌悪く席に着き、給食の用意をしようとする。


未来の中学の担任

「おーい、諸塚」


未来

「・・・はい」


 未来の中学の担任、未来を職員室に招く。


未来の中学の担任

「体育の先生から聞いたぞ。お前、またグループに入れなかったんだってな?」


未来

「それがなにか」


未来の中学の担任

「あのなあ。何度も言っているだろう? グループに入れないと、社会のどこでもやっていけないからな? ひとりでいると、皆から置いていかれるぞ? 社会性が身に着かない。自分から話しかけようとしなきゃダメなんだ、話しかけないで待っているから、皆から顔しかめられるんだぞ」


未来

「・・・・」


未来の中学の担任

「はっきり言って、3年生は受験で忙しいんだ。お前のような生徒にかまってる暇はないんだよ」


未来

「・・・・・・・」


未来の中学の担任

「ほら、給食の用意しろ」


未来

「・・・・・はい」


 

時間は過ぎ、放課後。未来、帰宅。


未来

「・・・・ただいま」


未来の母

「あらお帰り。今日はクッキー、作っておいたわよ! 食べる?」


未来

「・・・・・」


未来の母

「どうしたの、未来」


未来

「・・・・・しばらく、学校行かないから」


未来の母

「・・・え? 未来?」


未来

「ごめん、部屋行くね」


未来の母

「ちょっと未来! どうしたの! 話は聞くわよ??」


 未来、部屋に入り、ドアを勢いよく閉める。


未来

「・・・・何よ、私、何も悪いことしてないじゃない!」


 未来、ベッドにうつぶせになる。


未来

「・・・・・・変わらないと、ダメなんだよね。このままじゃ・・・・高校生になれない」


 未来、ベッドの上で泣きじゃくる。


未来(心の声)

「私はいつもこうだ。人との会話が非常に苦手で、グループに入れないことなんて日常茶飯事で。協調性も、社会性もない、ただの廃人のようで。私はずっと、そんな自分を自己嫌悪しながら、学校を休み続けた」


 

 しばらく日が経つ。


 未来の部屋に兄・拓海が入ってくる。


拓海

「未来~」


未来

「・・・・なに、兄貴」


拓海

「今話していいのかわかんないけどよ」


未来

「・・・・なによ」


拓海

「お前、高校生になる気はあるんだよな?」


未来

「・・・・なれないかもしれないけどね」


拓海

「光ちゃんがさ」


未来

「・・・光ちゃん?」


拓海

「光ちゃんに、未来のこと言ってみたんだ。お前、最近、外出てないだろ。だからよ、これ」


 拓海、未来に1枚の紙を渡す。


未来

「言の葉、高校・・・」


拓海

「再来週、オープンスクールやるんだ。光ちゃんが来ないかって」


未来

「・・・・・私、最近、学校に行ってないけど、いいのかな」


拓海

「個人での受付もできるし。それに」


未来

「それに?」


拓海

「いい人がいっぱいいるってさ、言の葉高校は」


未来

「・・・・いい人」


拓海

「検討してみなよ。もし行くときは、光ちゃんが案内してくれるって」


未来

「・・・・・わかった」


拓海

「俺の教え子でも不登校がいてさ。そいつ、頭いいから、そいつにも、言の葉高校提案してみてるんだ」


未来

「兄貴のクラスにも、いるの?」


拓海

「いるよ。天才的に頭いいのに、学校はテストの時か、よほどの時しかこない。そんなやつにも、おすすめしやすいんだよ、言の葉は。いろいろしっかりしてるから」


未来

「・・・・・そう」


拓海

「決めるなら早く決めろよ~。じゃ、ご飯になったら呼ぶ」


未来

「あーい」


 拓海、未来の部屋から出て行く。


 未来、オープンスクールの募集用紙を眺める。


未来

「言の葉高校・・・・・」


 未来、立ち上がり、募集要項を机に置く。


未来

「私でも・・・・高校生になれるのかな」



2週間後。


未来、言の葉高校に到着。光と待ち合わせしている。


「よう、未来ちゃん」


未来

「あ、光ちゃん。今日はありがとう」


「拓海からの頼みだし、私も未来ちゃんが元気で高校生になってほしいって思ってるからな。さあさあ、案内するぞ」


未来

「うん」


 未来、昇降口で上履きに履き替え、受付。


 未来、受付を済ませる。


「なあ未来ちゃん」


未来

「うん? どうしたの、光ちゃん」


「最近、学校はどうだ? 拓海からは、あまり順調ではないと聞いたが」


未来

「兄貴の言う通り。全然、順調じゃないよ。担任が嫌いすぎて、学校行ってない。・・・あ、勉強はしてるよ?」


「未来ちゃんの頭脳なら、中学レベルは家でもできるだろうからな」


未来

「うーん、まあね。わかんないとこは兄貴とかお母さんに聞いてるから」


「にしても、教師は生徒を笑顔で学校へ向えるのが使命だ。それを遂行していないなんて、けしからん話だ」


未来

「あの担任・・・・私のこと、いじめたいだけだよ。もっとちゃんとやれとか、グループに混ざれないと社会性がどうのこうのとか、自分から話しかけないから周囲から顔をしかめられるんだとか、意味わかんないことばっかり言われるから、行くのやめた」


「ゴミカスじゃねえかよ、その担任」


未来

「ほんとそうだよ。あの人、生徒を不登校にさせたいのかな」


「言の葉は心配するな、そんなことをいう先生はひとりもいないからな。皆ウェルカムだ」


未来

「いい学校ってのは、うちのお母さんもお父さんも兄貴も言ってた」


「私も、いい学校だって思ってる。本当に、心の底から、な。先生方の目が優れているからか、入試を突破する者も、良識のある、知的で心優しい者が多い」


未来

「言の葉の先生グッジョブ過ぎるでしょ」


「ははははは。だから好きなところへ行け。ついていくから」


未来

「ありがとう、光ちゃん・・・・・ん?」


「どうした? 未来ちゃん」


未来

「あの子・・・・」


 未来、ひとりのボリューム感のあるお下げ髪の少女を見つける。


「お? 知り合いか?」


未来

「いや・・・・知らない子だけど。迷ってるように見える」


「言の葉の服装じゃないな。オープンスクールに来た中学生か」


 ボリューム感のあるお下げ髪の少女、パンフレットを片手に悩んでいる。


 未来、しばし少女のことを見つめている。


未来(心の声)

「まるで・・・・学校での私、みたい」


 未来、意志を固め、拳を握りしめる。


 未来、光の白衣の裾を引っ張る。


「どうした・・・?」


未来

「迷ってるなら・・・・声かけに行く」


「未来ちゃん・・・・」


未来

「私は・・・・学校で迷っても困っても、誰も助けてくれないから。私は、声を掛ける」


「・・・・いい心がけだ。行ってこい」


 未来、お下げ髪の少女に近づく。


未来(心の声)

「私は無視なんて、したくない」


未来

「あ、あの」


奏汰

「あ、・・・・はい」


未来

「お困りですか・・? 何だか、迷っているように見えて」


奏汰

「え、あ、はい。迷っちゃいました。ひとりで来たもので・・・・」


未来

「・・・・一緒に、回りますか? 知り合いの言の葉の先生も、一緒だから・・・」


 奏汰、ぱあっと笑顔を見せる。


奏汰

「はい! お願いします・・・・」


「こんにちは」


奏汰

「こ、こんにちは」


「この学校で物理教師をしている、京極光だ。京極の『極』と『光』合わせてオーロラと読めるから、オーロラ先生とでも呼んでくれ」


奏汰

「オーロラ先生・・・・はい! わ、私は永平寺奏汰です。あなたは?」


未来

「私? 私は・・・・諸塚未来、です」


「よし、一緒に回ろうか」


奏汰

「はい!」


 奏汰、未来、光と共に校舎内を散策。

 様々な部活の展示、発表を見学。


奏汰

「あの」


「お? どうした」


奏汰

「合唱部に見学行っても、いいですか?」


未来

「私は、かまわないけれど」


「好きなとこ行け。ついていくから」


奏汰

「ありがとうございます!」


 3人、音楽室に到着。


 合唱部、演奏を開始。


 奏汰、表情を明るくさせて合唱を聞き入っている。


 未来、その様子が気になっている。


 

 合唱部、演奏終了。


 3人、音楽室を出る。


奏汰

「あああ・・・・やっぱりよかった、合唱部。全国大会に行くって聞いていたので、いつか聞いてみたいって思ってたんですよね」


「そうか、満足してくれたならよかった」


未来

「すごく、夢中になってましたね」


奏汰

「えへへ、私、合唱大好きなんです。今年も合唱コンクールが学校であるので。最後の合唱コンクール、気合入れるつもりなんですよ」


「ほお、そうか。いいじゃないか。学校行事を大切にする心意気は、大事にした方がいいぞ」


奏汰

「ありがとうございます!」


 未来、顔をしかめ、俯く。


「ん? 未来ちゃん、どうした?」


未来

「あ、いや・・・・ごめんなさい、学校行事って言われると、いろいろ思い出しちゃって」


奏汰

「あ、すみません! お気にさわるようなことを・・・・」


未来

「いえ、奏汰さんが悪いんじゃないんです。そういえば、私の学校にも、合唱コンクールあったなって。私、学校行ってないから、何もわからなくて」


奏汰

「学校、行ってないんですか?」


 未来、頷く。


未来

「いい加減、変わらないとって思ってるんです。わかってはいるんです。もっと社会性身に着けて、他の人と協調できるようにならなきゃとか、もっと自分から話しかけられるようにならなきゃとか、他の人に何を言われてもめげないメンタル持たなきゃ、とか。わかってはいるんです、だけど・・・・変われない」


 3人、黙る。少しの間を置き、奏汰、口を開く。


奏汰

「変わる必要、ないような気がします」


未来

「・・・え?」


奏汰

「だって、未来さんは、困っている見知らぬ私に、声を掛けてくれました。そんな素敵な心を持っているのに、変わろうとしなくても、いい気がします」


未来

「・・・・・・」


奏汰

「未来さんの優しさは、私の心に凄く響きました。あのタイミングで、声を掛けられたら、誰だって嬉しいはず。だから、無理に変わろうなんて、思わなくていいと思います。ありのままの、未来さんが素敵だと思うので。人と喋れなくたって、ちょっとメンタル弱くたっていいんです。その優しい、心さえあれば」


未来

「奏汰さん・・・・・」


奏汰

「未来さんは、言の葉志望だから、今日オープンスクールに来たんですよね?」


未来

「え、あ、えっと・・・」


奏汰

「私は言の葉志望です。絶対合格して、またこの学校で・・・・お話しましょう?」


未来

「・・・・・・ッ!!!」


 未来、涙を浮かべる。


 涙をぬぐい、奏汰を真っ直ぐ見つめる。


未来

「うん・・・・・絶対に、合格する」



 オープンスクールが終わり、奏汰と別れた、未来と光。


「・・・・・よかったな」


未来

「うん」


「あの子、いい子だったな。未来ちゃんと気が合う子だ」


未来

「うん・・・・・すごく、嬉しかった。私、絶対言の葉高校合格する。何が何でも。頑張って・・・・学校に行くよ」


「いい契機になったのなら、私も嬉しい。頑張れよ」


未来

「うん、ありがとう、光ちゃん」


 

 未来、帰宅。家の中で、拓海がパソコンで作業している。


拓海

「お? お帰り、未来」


未来

「ただいま、兄貴」


 未来、拓海を見つめ、立ち尽くす。


拓海

「どうしたんだ、未来。オープンスクール楽しかった?」


未来

「兄貴」


拓海

「お、おう・・・なんだ?」


未来

「私、明日から学校行く」


拓海

「・・・へ?」


未来

「私は私のままでいいって、気付けたから」


拓海

「・・・・何かよくわかんないけど、未来の中で何か悟ったんだな。よし! 俺は応援するよ!!」


未来

「兄貴ありがとう。・・・・・あ、部屋、行くから。ご飯になったら呼んで」


拓海

「おう! ・・・・真紘くんは、大丈夫かなあ・・・」



未来(心の声)

「あの後、私は頑張って、学校に行った。何があっても、何を言われても。言の葉高校に合格して、永平寺さんとまた、話すために・・・・ありのままの私で、頑張れるだけ、頑張った」


 

 言の葉高校合格発表日。未来、拓海と共に校庭でそわそわしている。


 合格者が発表される。


未来

「31,33、・・・・36!! 受かってる・・・・受かってるよ、兄貴!」


拓海

「・・・うおおおおお、未来!! やったな!! あ! 113もある!」


未来

「113? あ、もしかして兄貴のクラスの不登校の子・・・?」


拓海

「・・・・あああああ、見守って来たふたりが受かった・・・・!!」


未来(心の声)

「私は、見事合格した」


 

入学式の日。最初のシーンに戻る。



1年2組全員、着席が確認され、担任、教室を見渡す。


担任

「はい。皆さん、おはようございます。本日は、入学おめでとう。今日から皆さんは、言の葉高校1年2組の生徒です。お互いを尊重し、認め合って、頑張っていきましょう。それでは、まず、呼名を行います。呼ばれたら、返事をするように。1番、朝日奈優希」


優希

「はい」


担任

「2番、天崎まい」


まい

「はい」


担任

「3番、和泉聖良」


聖良

「はい」


担任

「4番、今崎麻音」


麻音

「はい」


担任

「5番、鵜飼レオ」


レオ

「はい」


担任

「6番、永平寺奏汰」


奏汰

「はい!」


 担任、出席番号順に呼名を続けていく。


担任

「36番、間宮息吹」


息吹

「はい」


担任

「37番、村田かおり」


かおり

「はい」


担任

「38番、諸塚未来」


未来

「・・・はい!」


                                (終わり)



登場人物

諸塚未来(もろつか みく)高1(98期生1年2組)

永平寺奏汰(えいへいじ かなた)高1 (98期生1年2組)

京極光(きょうごく ひかり)言の葉高校物理教師 26歳

諸塚拓海(もろつか たくみ)未来の兄、光の友人の中学校教師 26歳










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