第48話 選手交代

「だからって、今の状況わかってる!?」

語気を強めていう桃花。


「いえ、まったくわかりません」


「ふざけるのもたいがいにー……あれ?」

急に物思いにふける桃花。そして、ポン、と体の前で手をたたいた。


「あ、金剛の話聞いてたの私だけだった……ごほん、端的に言うと、楓、君が狙われてる」


「なるほど。それで、狙われる理由は何でしょう?」


「オムニアへの宣戦布告に使うみたい。今は殺されないけど、捕まったら最終的には殺されるね」


「……わかりました」

というと桃花に向かってアンチマテリアルライフルを構える。


「え?」


困惑する桃花を無視し、引き金を引く。すると、弾はその場から動かず、銃本体が後ろへ吹き飛ばされる。


「ぐうぅ!?」


音速で打ち出された銃本体は、後ろに回り込んでいた金剛の体にクリーンヒットし、少し吹っ飛ばす。銃本体は大地と空の子供達インペルフェクツの万有引力操作で手元に戻る。


「桃花さん、まだ戦えますか?」


「え?」


「どうやら、戦わないと突破できないようです。周りを壁に囲まれている感じがします」


「えっ!?」

一瞬、目から光が消える桃花。


「本当だ……でもどうして!? ウリエルは撤退したはずなのに」


「それが理由かもしれないですね。身体を維持するより、結界を維持し、目的であるぼくの確保を優先した可能性が考えられます」


「……っ」

桃花が僕を突き飛ばす。それと同時に、大地と空の子供達インペルフェクツの力で高速移動。


その直後、今まで自分たちがいた地点に巨大化した金剛の腕が落ちてくる。


「ちっ、気付くかこれをっ!?」


銃声1つではじけ飛ぶ金剛の頭部。


「一応音速越えのライフル叩きつけたはずなんですが」


「あいつの体は今土でできてるから」


「……はい?」


「あれ? わかってなかったの?」


「いや、血と脳漿ぶちまけてるから肉体回復だと思ってましたが違うのですか?」


「違うよ。だって、精気が普通の生物と違うじゃん」


「精気で言われましても……っ!?」

ふらつき、ひざを折る自分。


「ぁあ……!?」

めまいがひどく、変な声が出る。


「どうしたの楓っガッ!?」


「ぐっ……!!」


土塊に吹き飛ばされる。あらぬ方向に飛んでいくライフル。


「ったく、ようやくおとなしくなったか。手間かけさせやがって」


歩いてくる金剛。まずは手前にいた自分に近づき、ノーガードの腹を蹴り飛ばす。


「がぁ!?」


吹っ飛び転がる。その後せき込み、少し血を吐いた。


「がはっ、はぁ……はぁ」


「まだ意識があるか。気絶させるつもりで蹴ったが、まだ制度が荒い」


特に自分を視ずに淡々というと、今度は桃花に歩み寄り髪をつかんで起き上がらせた。


意識はなく、されるがままにされる。今更気づいたが、残っている腕の関節が増えていた。


「このまま回収して奴隷に調教するもの手だが、イレギュラーは今は避けたい。殺すか」


少し惜しい気もするが、と淡々と言葉を吐き、空いている手で首をつかむ。

次の瞬間、両方の腕から色が抜けたと思うと土に戻り、崩れ落ちた。


「あ!?」


「忘れたの金剛? 角と尻尾が生えてるのにうちの体に触るなんて、肉の体の時は絶対にしなかった……堕ちろ、『夢魔の投げキッスオキュラム・サーキュルス』」


「っ……!?」


特にポーズもなく唱える桃花。それでも吹っ飛ぶ……というより、吹っ飛んだうえで砂になり霧散する金剛。


「多少の時間は稼げたはず……楓、大丈夫?」


「……大丈夫だったら立ち上がってますよ」


「だよね……悪いんだけど、ここから一人で戦ってくれない?」


「いいですけど……っ!」


今気づいた。さっきの土塊で吹き飛ばされたとき、どうやらろっ骨が折れていたのだろう。胸部や肩から白い骨が飛び出ている。見えないが、背中にもあるだろう。口には血を吐いた後が。


「言質とったからねっ」


おもむろに奪われる唇。今までのような力が抜ける感じではなく、力を流し込まれたように感じた。


「うちの精気の9割、あげたからね……」


全身を赤黒い膜で覆いながらいい、そして倒れる桃花。めまいや体の痛みが抜け、ほぼ万全の状態になって立ち上がる。あらぬ方向に飛んで行ったライフルも当然手元に戻す。


目の前では、土が人の形を形成し始めていた。おそらくそこに金剛の魂というか、本体がいるのだろう。しかし、まったく金剛から嫌な予感が感じられない。


土がだんだんと着色されていく。倒れた桃花はとりあえず放置。初手で桃花から離れるため、特殊な弾をライフルに込める。


「これが最後の戦いになる予感がします。予感がしない以上、死ぬことはないと思いますが、油断せずに行きましょう」


自分に言い聞かせるようにつぶやく。着色が終わり、金剛が目を開き言葉を発そうと口を動かした瞬間に引き金を引いた。

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