第47話 凍てつく時間
一面氷が広がる一帯。一つの赤い氷像と、炎のように揺らめいているかのような氷が円形状に並ぶその中心付近の氷塊に、薬王真百合は腰掛けていた。
氷漬けにした、左腕であったはずの肉塊を抱えて。
「はぁ、やばすぎるの」
ため息をつき、つぶやく真百合。
「本体じゃなくてあの威力とか、まじありえないの」
大きい赤い氷像……氷塊は、石手金香であったはずの体が凍ったものだった。ただし、全身が液体……というか薄めた血液であったが。
過去に何があったかは知らないが、左手が肉塊になる経験があったことはほぼ間違いない。血の記憶という能力が本当であれば。
そう思考している真百合の目の前の空間に亀裂が入った。出てきたのは浄瑠璃向日葵。
「まずいことになりました」
出てきて早々、少し焦りが見える表情で切り出した。
「どうしたの? ちゃんと指定位置の地面は切り落としたはずなの」
「そこは問題ではないです。ただし、予定外の事態が起こったことは事実です」
「何が起こったの?」
目をつぶったままの向日葵の顔をしっかりとみて問う真百合。
「ウリエルが、敗れました」
「え!? まじなの!?」
始まりの四天使の一人なのに!? と続けて叫ぶ真百合。
「正直、こちらの不手際です。うまく予測ができないところにウリエルがいることまでしかわからなかったのです。しばらく、というか石手を足止めし、かつ楓を回収するまでとどまっていたので余裕だと思ったんですが……」
「まさか、倒されてしまうとはなの」
「そのせいか、楓が動きました。現在、ウリエルの協力者と思われる人物を……っ、狙撃しました」
「ウリエルの協力者……石手が動いてたの……もしかして、金剛?」
「……撃たれた協力者は周りの土で傷を修復していますね」
「ん……? 土で修復なんて、金剛ならできないはずなの」
「そもそも、人物といいましたが魂の宿った土人形といったほうが正しいです、その協力者は」
「そうなのね。ならだれかは分からないの。じゃ、今から回収しに行くの?」
「それがすぐにはできません。ウリエルは離脱していますが、どうやら結界を超強化しています」
今までは来るもの拒まず、去るもの留める、みたいな結界だったらしいが、現在は入るのも出るのもとても困難になっている。
「次元を渡ることも遮断しているので、力押しによる破壊しか突破できません」
そして、と一呼吸していう向日葵。
「真百合さんの腕を治し、真百合さんに壊してもらう必要がありますが、破壊できるまでに楓を取り戻せる確率は、1%未満です」
「えっ!? もしかして、」
「これまで戦闘訓練をしていたようですが、自己暗示……いや、我々がかけ合った暗示を解いていないせいで本来の戦闘能力の50%も出せていません」
殺される可能性はなさそうですが、と付け加えたが、そわそわしている向日葵。
「向日葵、こ―ゆーときは自分の主張をはっきり言うべきだと思うの。早く助けに行きたいのでしょうなの」
「それで、いいのですか?」
「どうせうちはもうこの世界じゃ居場所がないの。だから、空へ行くまではあなたについていくの」
気にしないで、頼っちゃっていいの! と笑顔で答える真百合。片腕がないのが痛々しいと、今更思う向日葵。
「わかり、ました。ありがとう……ございます」
そして、瞼を開く向日葵。蒼い義眼があらわになる。
「それでは、まずは腕を治しましょう。その腕だった肉塊ください」
「そこだけ聞くと猟奇的なの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます