第43話 6月12日 夢魔と堕天使②

「っ!」

翼が極楽のそばを通り過ぎていく。それだけで地面がえぐれ、風、いや、空気の壁が叩きつけられる。


「ははっ、踊れ踊れ!」


高笑いする金剛。動かしているのは片腕だけ。そして、赤熱したがれきに腰掛け動く気配もない。


片方の羽は大雑把に攻撃を仕掛けてくる。どうやら腕の動きと連動しているようで軌道やタイミングは読みやすい。だが、攻撃のたびに突風が吹き、炎の勢いが増す。

ただでさえ薄い酸素がさらに薄くなるような感覚に襲われるが、逆に空気をかき乱しているおかげか特に問題は感じられない。


もう一度来た翼の攻撃をよけると、大地と空の子供達インペルフェクツの力を発動。能力により抜き足の効果が得られ、金剛の目の前に肉薄する。しかし。

キィン! という音を立て、翼に防がれるナイフ。翼は純白から金属光沢をもつ銀色に代わっており、ナイフでは多少削れるが切り裂くことはできない。


「―――おおっと、忘れてたぜ。大地と空の子供達インペルフェクツの能力を」

わざとらしく、今気づいたように言う金剛。


それに答えず、はじくように動く銀色の羽に逆らうことなくそのまま後退する極楽。

銀色の翼で防御、純白の羽で攻撃。ただ単純にそれだけだが、どちらもオーバースペック過ぎて打つ手がない。


ただし、金剛側もそれに変わりはない。攻撃が単調すぎて、極楽にことごとくよけられているからだ。


「打つ手なし、という感じだな、トウカ?」


「その名で呼ぶことを許可した覚えはないね、金剛」


「けっ、つれないねぇ。少しは会話を楽しもうじゃないか。もしかしたら隙が見つかるかも知れないぜ」


「確かに、今のあんたは隙だらけだけど……逆に怪しい」


警戒を強め、ナイフを握り直し構える極楽。滑り止めのグローブでナイフは特にずれていなかったが。


しばらく、にらみ合いが続く。受けに徹するつもりはないが、こちらから動くのも得策ではないとわかっている極楽。そして金剛は。


「それでいい。いい警戒だし、お前から動くのも愚策だ。よくわかってるじゃないか、さすがは『神童』だ」


「……そりゃどうも」


「そして間違ってるぜ?」

口角を吊り上げ言う金剛。


「?」


何が間違っているかわからない極楽。


「なぜ俺が今までお前がよけられるギリギリのぬるい攻撃をしていたかわかるか? 答えは単純、時間稼ぎだ」


「時間……稼ぎ?」


「お前、まさか俺が一人で行動を起こしたとでも思ったのか?」


「いや、さすがに思っていないけど?」

だからこそわからないんだよ、と付け加える極楽。


「翼があるんだから、圧倒的な力でごり押しすれば目的ぐらい達成できるだろうに」


それを聞いた金剛は、

「はぁ~~~~、わかってねぇ、わかってねえよ、お前は」

とても大きなため息をついて首を振る金剛。


「教えてやる。俺たちの今回の目標は、圓明楓の処刑だ」


「つまりは殺害だよね?」


「違う、処刑だ。結果は同じだが、過程が違う」


「うん、そうだね?」

だから? という極楽。あえてあおるような言葉を選ぶ。


「『神童』と呼ばれても、頭はダメダメだな。知ってたが。まあいい、無知なお前に教えてやる。圓明を生きたままで捕らえ、公衆の面前、そしてネットの生中継で処刑を行う。するとどうなると思う?」


「どうなるって、圓明が死んで……!?」


「気づいたか。圓明がこちら側の人間に殺された。つまり、3iの次元の人間は天使隊レグナーズ第零軍を敵に回すことになる」


「つまり、こちらに攻め込んでくる……」


「そしてそれを返り討ちにする。一人残らず殺し、首をさらす。そしてその実績を持って、反オムニア派の派閥や直轄地や自治区を動かす」


「まさか……」


「そのまさかだ。第4次世界大戦の勃発。それが最終目的だ」


まさかそこまで考えているとは思っていなかった極楽は、息をのむ。


「そこで、俺はお前を足止めし、時間を稼ぐ。その間に、ほかのやつらが圓明を探し、捕縛する。捕縛の連絡が入り次第、トウカ、お前は……無力化、調教して性と戦闘の奴隷にするか、殺害だな」


「死んでも断る」


「だろうな。なら、死んでもらう」


「金剛、うちがお前と戦い続けるとでも?」


「だろうな。だからこそ、俺がいる」

探索藩の連中じゃ『神童』に束になっても勝てねぇからな、と付け加え、さらに続ける金剛。


「それに、戦わざるを得ないぜ? なぜなら―――」


「―――ウリエルが結界で極楽桃花を出れないようにしてるから」


「なっ……⁉ うそ、でしょ……」


金剛の上から不自然に光が差し、4枚の羽をもった堕天使がおりてくる。

その天使は堕天使ガブリエルに殺されたとされていた、ウリエル、と名乗った。

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