第41話 6月12日 帰路にて
22時過ぎあたり。
日が沈み、割と時間がたった。しかし、まだ深夜とはいいがたいころ。
俺こと圓明楓と、桃花こと極楽桃花は帰路についている。
「まさかこんなに早く終わるとは……さすがは桃花の行きつけの武器屋だな」
「調整にほとんど時間がかからなかったしね。それでもだいぶ遅くなっちゃった」
「さんざん射撃させられたせいだな……500発打ては狂気の沙汰だぞ」
ため息をつく俺。
「ため息をつくのは、わかるよ。でもすごいことなんだよ? 武器屋が途中でやめていいって言わないなんて」
「右目で撃ってた時、300発目あたりから射撃が遅れだして真ん中に当てられなくなってきたあたりで止めてほしかった……」
「真ん中って……スコープ付きのアンチマテリアルライフルとはいえ、異常だよ、ど真ん中じゃなくて、少し……ほんの数ミリずれただけで真ん中判定じゃなくなるんだもん」
「だからこそ、だ。ハンドガンならいざ知らず、正確さが求められる射撃、それもあの程度の距離で肉眼でわかる数ミリもずれたんじゃ、話にならない」
戦闘中なら致命的だ、とまで付け加えた。桃花には、え? アンチマテリアルライフルで接近戦想定してるの? となぜかひかれた。
「あらゆる可能性は、考えておくべきだろう……?」
「ん? どうした?」
いやな予感がした。が、とても弱くすぐ消える。
「いや、何でもない」
猫又の
今までは嫌な予感は確定で自分への致命的ダメージの予兆として機能していたが、かすかな予感を感じるようになり取捨選択の時間が必要になった。
今までのように致命的ダメージの予感は大きいので問題はないが、困るのが『少し困るけど死にはしない』みたいな予兆が邪魔なのだ。
「
「なんか言った?」
ヤベッ、声に出てた。
「何でもないよ」
「ふぅ~ん?」
見つめられても何も……!?
「ッ……!?」
バッ、と後ろを振り向く俺。しかし、後ろには誰もいない。高いビルがぽつんと(周りが低いせいだが)あるだけだ。
「楓? さっきからおかしいよ?」
「……嫌な予感がしたんだ。今は消えてるけど」
「それを早く言えよ」
怒気を含んだ声で静かに発言する桃花。
「今は消えてる。それに、最初のはかすかで、2回目……さっき振り向いたのとは別のだから」
「……そう。じゃあ、1回目と2回目、方向は?」
「1回目は右斜め前から。二回目は真後ろ、というより高いビルの上から」
腕を組み、右斜め前……、とつぶやきながら考える桃花。
「用心に越したことはないかな……うん、予定変更だ、楓」
「予定変更?」
「うちの隠れ家に行く」
その瞬間、猛烈に嫌な予感を感じた。発生源は、目の前の極楽桃花。
急いで逃げようとするが、腕をつかまれた。俺の目の前が急激に真っ暗になる。意識が途切れる前、本当の絶望を知る。
「……逃がさないよ♡」
「頼む、やめてくれ……」
意識が途切れる寸前に、そうつぶやく。右斜め前方から音が聞こえた気がしたが、気のせいかもしれない。
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2024年10月22日
長らくお休みをしていましたが、投稿を再開します。これまで通り週1~3回程度更新する予定です。
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