第36話 とある場所で
「ん、だいぶ時間はかかりましたが、ようやくここまで来ましたか。まさか管理塔にたどり着くとは」
薄暗い部屋、しかし大きなディスプレイが煌々と光るその部屋で、機械的な光を発する堕天使の翼を広げた人物がつぶやいた。
「まさか即殺す、いえ、すぐ壊すとは思ってなかったですね……想定して計算するべきでしたか?」
キーボードはないが、モニターに膨大な量の計算式が超高速で表示されていく。
「いえ、必要なかったみたいですね。やはり翼の想定がまだまだ甘いですか……」
大量の計算式が表示されていく。その表示は終わる気配がない。常に更新を行っているのだろう。
「ですが、オムニアが活発に動いてくれたおかげでサンプルは必要以上に集まりました。これを計算式に代入すれば……」
計算式の文字に数値が代入されていく。導き出されたのは、ある時刻。
「ん? 早すぎますね。これは……すでに動いている?」
新たな計算式が表示され、動き出す。
「これは……間違いない、動いてます。明らかに動きがおかしい原子が確認できますね」
少し急がなければ、と人物はつぶやくと、モニターの画面が消え、部屋は暗闇に包まれる。
「電波接続開始。接続。もしもし、薬王さん、少し早めに動く必要があります。急いで準備を、あ、もうできてますか。では、合流しますね……」
スマホを使わず、電話をしているのだろうか。
「さ、向日葵、かえくんを迎えに行きましょう」
自分に言い聞かせるようにつぶやく浄瑠璃向日葵。
空洞の瞳にガラスの義眼をはめ込み、その部屋から消える。
その直後、消したはずのモニターに電源が入り、ひとりでに計算を始めていく。
その計算ソフトの名は、皮肉なのか以下のようであった。
『Laplace's Demon』、と。
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