第35話 夢か、それとも別の何か

目を開ける。白い光が視界を埋める。


「ここは……?」


「夢、かな」


翼はないが、尻尾が生えている極楽が答えた。ちなみに全裸である。自分もだが。


「夢、の割にはだいぶ意識がはっきりしているように感じますが?」


「夢という表現が少しおかしいかな。楓の深層意識、が最も近いかな」

だから話し方も違うのかな? と付け加える極楽。


「そうですか」


「む、反応が薄い。せっかくうちの全裸を見せてるのに。それに、魅了したのに致死ダメージとか、心折れるんだけど」


「はぁ、そうなんですね」


確かに極楽の裸体を視界から外していないが、美しいと少し感じるだけ。それ以上でも、それ以下でもない。


「ねぇ、ここは楓の精神世界なわけよ」

不満そうに言う極楽。


「そうみたいですね」


「だからさ、楓が考えてることはうちにもわかるのよ」


「はぁ、そうですか」


さらに不満そうにする極楽。なんなんですか。


「だからさぁ! せっかく名前で呼んであげてるんだよ! うちのことも名前で呼んでよ!」


「……はい?」


「何よ!? 不満なの!?」

処女もあげたのに……とつぶやいた声が。


「不満はないですけど、なんで言ってくれないんですか、桃花さん」


「言わなきゃわかんないの?」


「わかりません」

わかる努力をしてもわからないだろう。


「……わざとなのかな? 考えてることわかるって言ったよね?」


「すみません。でも、人の深層意識こころに入り込んどいて何様ですか?」

一応怒っときましょう、一応。特に何も感じませんが、それが普通の感覚なのでしょう?


「……そうね、それもそうだね。悪かったよ。許して?」

あきらめたように首を振った後、少し笑って言う極楽……じゃなかった桃花。


「別に最初から怒ってませんよ。それで? ここにまで入り込んで話している以上、何か用事があるのでは?」


すると桃花は困り顔になる。


「いや、正直用事は済んだんだよね。深層意識で会話が成立するレベルで意識があれば、そろそろ起きるってことがわかるの」


ふーん、へー。予想はしていたが僕は寝ているのですか。そう思ったあとすぐ、視界が急激にぼやける。


「ありゃ、思ったより早いね。次気付いたときは現実だから安心してね。じゃ、後で」


そういうと桃花の気配が消える。そして、僕の視界はブラックアウトして……


「!」

目が覚める。


「んっ! んっ! んっ! んっ!」


マットレスがリズミカルに跳ねる。跳ねさせているのは俺の腰から少し低い位置にまたがり、目をつぶり、双丘を揺らしながら腰を動かす桃花に違いない。というかそれしかない。


「一体何が……ぐうぅっ!?」

急激に胸が痛む。

「ぐぎぎ……がぁあああああああむぐっ!?」


叫ばずにはいられなかった。だが、それも桃花の口で止められる。


「むぐ……!?」


するとどうだろう、叫ばずにはいられなかった痛みが、嘘のように引いていく。感覚としては、下半身のほうへ流れていくかのように消えた。


「んんっ!」


桃花の舌が俺の舌に巻き付いている。舌長くない?

巻き付いていた舌が離れ、もう一度俺の舌を這いずり回った後、名残惜しそうに舌が戻り、口が離れる。


「ぷはっ……どうだった? ファーストキスの味は?」

とろけ切った顔で言う桃花。


「きもちよかった……ファーストキスじゃないけど」


「なんだよつまらん。はっ! もしかして童貞でもない!?」


「桃花にられるまでバキバキの童貞だったよ」


「よかった! 捧げ損じゃなかった!」


「は?」

捧げ損? 何それ?


「もぅ、わかってるくせにぃ~。処女あげたの、楓に!」


「……」

そういえばそんなことも言ってたな。


「だから、処女捧げたの、楓に!」


「……なんで突然? 今まで搾り取ってたのいつも口だったのに」

処女はまだうしないたくないっていってたのに、と付け加える俺。


「んー、姿視てわかってると思うけど、うちは身体強化系の無翼原理アーラレビスもう一つ持ってて、夢魔……まぁサキュバスなんだよね。だから特に大切なものって感じじゃないんだよね」

特に命がかかってるなら処女なんて些細な問題だったね、と付け加える桃花。


「命の危機?」


「いや、まっさか魅了にかけらもかかってないなんて思ってなかったから、魅了度合いでダメージが減衰する技使って殺しかけちゃって」

てへ☆ 許して? としぐさをしながら言う桃花。かわいい。


「だから処女喪失はうちの自業自得だから、気にしなくていいよ?」


「……本当に?」


「本当だけど……責任感じるなら責任取ってもらおうかな?」


「そっちのほうが気が楽だ」


「じゃ、二十歳になったら結婚して?」


「結婚……はぁ、もう何でもいいや」


サキュバス、いや夢魔だからなのか、貞操観念がゆるゆるだ。もう、あきらめよう。


「今は好きじゃなくてもいいよ、うちのこと。楓に好きになってもらえるよう努力するから!」


「体の相性はあんまりよくなさそうだけどね……全然気持ちよくないけど」


エロ漫画のようにはいかないのは分かっていたが、まさか入れてる感覚すら薄いとは……粘液のぬるぬる感は感じるが。


「ああ、それで正常。わざと感じないように精気を操作してるから。……っと、んんっ、そろそろいいかな」

いったん抜いてみるよ、と言って俺の男性器が桃花の女性器から抜け出る。


「あ……!?」


「やばっ!」


急激に力が抜ける。男性器には急激に血が集まる感覚が。

すぐに、男性器が女性器に挿入される。ただ、感覚はなく、視界が徐々に暗くなっていく。


「だめ、これだけじゃ足りない!?」


唇が奪われる感覚がしたところで、俺の意識は落ちた。

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