第31話 5月17日 side 金剛 その①
「はぁ、はぁ……」
ビルの間を、壁に手をつきながらおぼつかない足取りで歩く人影。
金剛紅葉だ。
「はぁ、はぁ……くそっ、クソッ!」
壁をこぶしで殴る。壁に走る、蜘蛛の巣状のひび。よく見れば、金剛の頭から一本角が生えており、髪は紅葉のように紅い。
『ちょっと、落ち着いて! みんなの死を無駄にするの!?』
『事実誤認。誰も死んでいない』
「お前ら、少し黙れ……くっそ、死んだも同然だ。『
壁のひびがさらに広がる。屋上までひびが広がり、人ひとり簡単につぶせるコンクリートが落ちてくる。
それをこぶしで砕く金剛。コンクリートの粉が、ほほにまとわりつく。顔を振り、粉を落とす。しかし、両目から1本ずつ粉が落ちず2本のラインが出来上がる。
『泣くなんて……死んだわけじゃないでしょう?』
鬼がそういう。
『静止。鬼、お前には配慮が必要。記憶共有は止められていない』
自動行動がいさめる。
「全員生きたまま凍結された。それだけならよかったが……まさか能力まで……クッ」
ふらふらと歩く。右腕は完全に凍結し、動くことも、
「くっ……奪われた。またっ……!」
『……あのっ!』
『静止』
『っ……くぅ~……』
意識を分離しているのは慰めの言葉が欲しいのではない。ただ、一人だと何をやらかすかわからない。自暴自棄になり、今まで積み上げてきたものをすべて崩さないようにするために監視するためだ。
「まっ、積み上げてきたものはほぼすべて崩れたが……ははっ」
『静止。落ち着きを』
「……ああ、そうだな。すまない」
『なら……廃ビル持ち上げるの、やめてくれます……か?』
「あ? あー……」
重苦しく、そしてがれきがくずれる音が静かに、しかし確かに響く。
そのまま、壊れた……いや、壊したビルから離れるように角を曲がる。
「やっと来た」
「『『!』』」
声は後ろからした。
「ビル壊したときばれたかと思ったけど、いらない心配だった?」
「誰だ……」
「自己紹介、したほうがいい?」
声は上からする。そして、声の主は浮いている。
「
翼を6枚広げ、ちょうど山から登ってきた朝日をバックに神々しくも見える。
「んー、残念。ちょっと違うかな」
翼が、動く。羽が動くわけではなく、そのままスライドするように。そして、羽が途切れ、金属の質感がある玉が6つ見えた。
堕天使の翼だ。
「自己紹介、先にするね」
地上に足を付け、目線を合わせてきた。
「ウリエル」
「え?」
耳を疑う金剛。思わず、素で声を上げてしまう。
「ウリエル。君らが言うところの、始まりの四天使の一人だよ」
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