第29話 5月24日 帰還
「―――ぁぁぁぁぁぁああああああああ!?」
叫びながら、勢いよく起き上がった俺。
「あ、おはよー圓明」
疲れ切った顔をした石手が目の前に。
「状況把握は後にして、とりあえず普通のベッドに寝かせるからそのまま動かないで」
「え……!?」
上半身の力が急激に抜ける。上体を起こしていられない。たった今、起き上がった、のに……
ぷよぷよしている何かに再び横になる俺。ただ、意識は割とはっきりしている、気がする。そのままの状態で水の触手のようなものが俺の体をベッドへ。
「さて、聞きたいことは山ほどあると思うけど、まずは私の話を聞いてほしい」
顔のすぐそばに椅子を持ってきて座る石手。そして手にしていたエナジードリンク(赤いブル)を一気飲みしてから話をしだした。
「まずは……なぜ圓明が寝ていたのか、についてから話そうか。寝ていたのはゴールデンウィーク中の5月3日から。今日は5月の24日だから、ほぼ3週間寝たきりだった」
「え?」
「もうちょっと聞いて。でも、5月9日からの記憶はあるでしょう? その次の日の授業や戦いも覚えてるはず」
「ああ、覚えてる。でもそれは」
「そう。実際、5月10日に君の体はさっきまでいた水ベッドから動いていない。でも、意識は覚醒した。だから5月10日以降の記憶がある」
「…………」
幽体離脱でもされたのだろうか? そういう翼の噂は聞いたことがあるが……
「ごめん、何か期待させてたかもだけど」
ああそうだった、石手はある程度思考が読めるんだった。
「5月4日から、圓明の体は私の能力で水でできてた。数日間、体が動かしにくかったでしょう?」
「そうだったけど、そういうわけだったのか」
6日あたりまでははしすら満足に持てず、パックゼリーを飲んでいたくらいうまく動かなかった。スマホがひどく重く感じたのも記憶に新しい。
「でも、本来だったら水の体じゃ歩くことはほぼ無理なんだ」
え? ついさっきまで死にかけたが走っていたはずだが……?
「だから、ゆっくりではあるけど水の体に圓明の本体から抜いた血と、髪の毛を混ぜてたの」
そうすると水の体でも動けるようになる、と付け加える石手。
「はしが持てるようになった時点で全体の20%が髪と血液だった。私と模擬戦をしたときは40%だったかな。最終的には90%になったんだけど、それは極楽との模擬戦の直後」
模擬戦の直後というと……
「人工血液の話は!」
「想像の通り、一気に血液を抜いて、体を完成させたわけ。体を完成させてから1週間、訓練をすれば3日でオリジナルの体と同様に動け、反応できるようになるから、急いだの」
体が崩れたのは管理棟に入ってから数分後に自壊する体にしてたから、としれっと言われた。なら教えてほしかった。だいぶ焦ったんだぞ!?
「意識が水の体に移ってたのは私の
はぁ~とため息を、というかつかれた息を吐いた後、質問は? と。
「……特にない。髪が短くなったといっても、視界から察するに左目は隠れるようになっているようだし」
「そう、記憶見ちゃったから。悪いとは思ってる」
「気にしなくていい。謝るようなら、また撃つぞ?」
「肝に銘じとく。じゃあ最後に……」
点滴をもってくる石手。
「これを、さして……?」
ぷす
「あ、外した。血管、どこ?」
ぷす ぷす ぷす
「あーもーめんどくさい! 点滴飲め!」
「……無茶言うな」
ぷすぷすぷすぷすぷす
「八つ当たりしないでくれない? 痛くないわけじゃないんだけど」
ぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷすぷす……
5分後……
「やっと刺さったー」
ボロボロになった左腕に、ようやく点滴が刺さる。肘の関節のところに。じゃーおやすみー、と言って、すでにいない石手。
目を閉じ、涙を流し、ひとり呟く。
「……理不尽だ」
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