第27話 交錯する思惑 side 金剛 その2
「……ハッ!」
降り下ろしかけたこぶしが止まる。どうやら金剛の意識が完全に回復したようだ。
「はぁ、はぁ……やっとお目覚めか、この寝坊助が」
ボロボロになった竹林が言葉を発した。両脚は関節が増えており、胸には深くはないが、大きな爪痕のような傷が。
「すまない……傷を治してもいいか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「じゃ、」
ガン!
「っ……!?」
金剛は竹林の頭を殴って気絶させる。
「意識あるままやるとたまに壊れるからな……」
金剛の
しかし、内臓以外なら好きなように変化させることができる。脚や背を伸ばしたり、脂肪を筋肉に変えたり、様々だ。その力を応用すれば、擦り傷から四肢欠損まで、切れた手や足があれば直すことができる。
ただし、極楽桃花のようにただ直すのではなく、ものすごい痛みを伴う。それこそ、精神が壊れてもおかしくないほどの。実は肉体変化をするときも同様に痛みを伴うのだが、金剛自身にかけるときは痛覚を遮断できるので問題はない。
そして残念ながら、他人の肉体を変化させるときは、痛覚遮断ができない。
「ふーっ……」
息を吐いてから、竹林の体に触れる。にじんだ血も血管に戻り、1分もしないうちに骨折も治り、約2時間前と変わらない見た目の体となった。同じように、右腕が肩から切り落とされた種間の体も元通りにした。
そして、金剛は指を鳴らした。
「ハッ!?」
「ぐっ……やっぱりなれないな、無理やり起こされるのは」
種間と竹林が意識を覚醒させた。種間に至っては体まで起こし、金剛に怒りの視線を向けている。
「それで……状況を説明してくれないか? 竹林」
尋ねる金剛。
「おおむね金剛の予想、いや……想定の通りだ。ただ、平等は帰ってきていない」
「そうか……シナリオ道理にいかないものだな。未来視系の能力を持っている奴がうらやましいぜ」
「十分だろう。とりあえず、平等を追うか」
「了解だ。回復してからのほうがいい」
俺の
「種間」
「…………」
種間が緑色の光り輝く翼を展開し、回復を行う。まさにヒーラーという感じではあるが、傷の回復は止血程度がせいぜいだが体力回復、疲労軽減など経戦能力補助が非常に珍しくかつ効果も高い。効果範囲も非常に広い。
竹林と金剛は立ち上がる。が、それに従わない者がいた。
「竹林さん、何故そいつの話を聞くんですか? 俺の話は聞かないくせに」
種間だ。
「……竹林、組織の運営には口をはさむつもりはないが」
「……すまない。こいつはまだ、」
「未熟じゃない! 竹林さん、いつまで俺を子ども扱いする気だ!」
「!? っ、竹林っ!」
目を見開き、竹林の名を呼ぶ金剛。驚いているのではない、種間の発言の馬鹿さ加減にあきれてものが言えなかった。
ただ、そのあとの竹林の行動が早すぎた。名前を呼ばなければ、今頃種間の頭はトマトのように砕けていただろう。種間の眼前には、光をゆがめるほどの空気をまとった拳が。
「……次はない。本当なら種間、お前は連れて来たくはなかった。だが、今回は生かして捕まえる必要がある」
しかし、瞬きすらしない種間。
「はっ、どうせ殺せないくせに、力を見せつけたところで首を縦に振ると思ったか?」
しかも煽る種間。だが、2人はあえて反応しない。種間は何かを言おうと口を動かすが言葉が出ず、盛大に舌打ちした後、立ち上がった。
「種間、跳ぶぞ。しっかり強化しろ。死んだらぶっ殺すからな」
ダルそうにOKのジェスチャーをする種間。
「では行くぞ」
風の堕天使の羽が展開される。そのまま3人は圓明が飛んで行った方向に走り、踏み切る。3人は消え、衝撃波が残される。
3人が降り立ったのは、がれきの山。
「ここは……? いや、高校と古着屋が見えるということは、ここが旧ハードオフか」
周りの建物から場所を特定する金剛。
「がれきが多い気が……あ、マルイのマークがある」
OIOIと書かれたロゴを見つける種間。
「圓明の排除に動いた組織があったようだな。せめて死体でも見つかればいいが」
風でがれきをどかす竹林。金剛と種間は身体強化を使い、がれきをどかしていく。
「うーん、血痕は盛大についてるが……肉片が一つもない、あっ!」
何かを見つける種間。それはひざから下の片足だった。ただ、靴が女性用のローファーである。
「なんだよ死んでんじゃねーか、平等のやつ」
『あ、やっと来た?悪いんだけど持ってる脚折って?』
急に頭に響く平等の声。3人とも特に驚きもせず、無造作に持っていた片足をたたきおる種間。
『助かるわー』
がれきの奥のほうから、血や、頭部がつぶれ、四肢もあり得ない方向に曲がった女の体がおった足に群がり、一つのピンク色の球体になった後、平等の形となる。
そして、一糸まとわぬ姿の平等が目を開け、復活する。
「はー、油断しました。ごめんなさい」
開口一番、そういう平等。
「言い訳をさせてやろう」
偉そうに言う種間。竹林と金剛も黙ってうなずく。正直、強さは微妙だが生き残って最後まで戦える平等がほぼ実戦経験がないはずの素人に負けるはずがない。のに、死んでいたからだ。
「いやー、まさか2年以上前に四肢の骨を折って動けなくして、当時の彼女を壊れるまで目の前で犯し、さらに彼女の両足を切断と両目をえぐり取ったのを見ることしかできなかったやつとは思ってなくて……」
「……お前、そんなことしていたのか」
あきれ顔でいう竹林。他二人は本気で引いている。
「それでなんだ? 昔いたぶったやつだからと油断したのか?」
「右足をひざ上あたりから切断……というか潰してちぎったところで優位に立ったと思ってたら、何故か死んだのよ」
「割ときれいに殺されたから、再生が始まらなかったのか」
確認する金剛。それに黙って頷く平等。
「正直、がれきが降ってこなかったらまじで昇天してたかもしれない」
どうやらがれきで死体がある程度損壊したことで、
とりあえず種間が虚空から取り出した服を着る平等。長袖長ズボンと靴。
「で、圓明はどこですか?」
「今風で探してい―――!」
「「「っ!!」」」
4人は身構える。視界が急に暗くなったからだ。しかし、今立っている、旧ハードオフ……という名のがれきの山だけは夕焼けのままだ。
「ふふっ、今日は運がいいですね。最優先の殲滅対象によく合いますわ」
がれきの山にふわりと降り立つのは雪渓福寿。他の仲間は見えない。
「まさか動いているとはな」
舌打ちして言う金剛。
「確かに今まではこういう時はあまり動かないようにしていたのです。だって、やりすぎてしまいますからね。ですが」
一度言葉を切り、堕天使の羽を6枚展開する雪渓。
「もう、我慢する必要はないですもの。しばらく中国の動きはないそうですし」
ふふふ、と笑う雪渓。4人は一層気を引き締める。
「簡単に死なないでくださいね?
せいぜい頑張ってくださいね、と付け加え、にこりと笑う。その顔はまさに、悪魔のように見えた。
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