第26話 交錯する思惑 side 大日

「どうだったっておい、ここ3次元だが!?」


「観音、これからはもうちょっとコールの回数を減らしてほしいのじゃが。時間がかかってかなわん」


「大日、それはできない。0から6コールまではすでに役割が決まっている」

で? 情報はどうなった? と聞く観音。


「正直に言うと、ほとんど解析できておらぬ。記録だけはしておるので、記録が終わり次第一緒に解析してほしいのじゃ」


「はぁ、それはいいが、解析のエキスパートは仕事してないのか?」


挑発するように観音は言うが、その言葉に嫌な顔一つせず明石が口を開いた。


「俺の解析能力は過去に起こったことを完全に再現できるってだけだ。だから、現在進行形で起こっていることは解析できない。それに、襲撃の前後は解析したが、どうもおかしい点があってな。そういう時は、大日の部下と一緒に解析結果をできるだけ正しい情報にしているんだ」


「ん? なら結果を教えてくれればいいじゃないか? なぜ呼んだ?」


「今回は事が事だけにわらわの部下とともに解析はできん。そこで、今回の襲撃をすでに知っており、かつ見る目があるものを呼んだのじゃ」


「なら事が済んでから……いや、そうではないか」


「わかったか観音。現状の異様さが」


「ああ。これは過去を完全に再現したところで到底わからない、異様な雰囲気を感じる」


常に何かがおかしいと感じる。五感と第六感の認識がずれているような、そんな感覚が3人を襲っていた。


「あれ? 一人いなくないか?」


「あー、薬王のことか? あいつなら堕天使の翼で空飛びながら近くで観測しているぞ」


「見えないが?」


残念ながら見上げたそれには炎の翼らしきものは見えなかった。


「見えなくて当然だろう? あいつの無翼原理アーラレビス、知らないわけじゃないだろ?」


「んー……あ、不の入れ墨か」


「『不感かんじられず』ってところだろうな」


「そうか」

そう言って観音は黙って管理棟の上のほうを見ていた。


「なぁ、」


「やめとけ」

観音の言葉をすぐに明石の言葉を遮った。


「どうせ上に行って、見てみたい、というつもりだろう?」


「……誰がそんな」


「ばれてないと思っているのか?」


「意外だな。あんたがたはそれを望んでいるとばかり思っていたが」


「そうならないようにする、バランサーのような役割をする、またはしようとしている組織もあるんだ」


「はっ、現状維持派か。腰抜けが吠えるな」


「共感しろとは言わない。そして、やめろといったが、止めるつもりはない」


「……は?」


「見に行きたければ行けばいい。話はそれまでだ」


「……?」

観音は疑問に思う。しかし、行っていいなら行くまでだ。稼ぐためには、双方の弱点を知ることが必要だ。


観音は刀を鞘ごと抜き、上へ投げた。


「『戻れイデル』」


観音は上空へたどり着く。砕けた塔の内部では、羽持たちが激しく戦闘をしている。


「やはり炎や電撃が多いか。っと、『停止プロヒビーレ』」

観音の自然落下が止まり、空中に滞空する。


「事象系が大半、生物系もそこそこか。概念系も少数だが確認できるが……天使隊レグナーズは……」


堕天使の羽はそれぞれ炎なら炎、氷なら氷でできており、翼というよりかは金属光沢のある背中の球体からそれらが噴出しているような感じである。それに対して天使の翼はすべて純白で、一対だけで炎から電撃、はたまた傷の回復まで行っていた。


「なるほどな……堕天使の翼が特化型なら、天使の翼は万能型というところか……」


実は天使隊レグナーズの力がどのようなものなのか、という情報は地上には全くない。オムニアが意図的に隠していることもあるが、それよりも天使の羽をもつものがいないからだ。


仮に生まれつき翼をもっていたとしても、基本的にはすぐに堕天使の羽にされる。理由はそうすれば莫大な金が手に入ることと、差別の対象にならないようにするためだ。


いわゆるあちら側の世界にかかわりがない一般人は、天使の翼を極端に嫌がる傾向にある。詳しい理由はわからないが、おそらく今までなかった得体のしれない力をもったものは敬遠される。これは大地と空の子供達インペルフェクツが差別されるのとほぼ同じ理由だろう。


ただ、大地と空の子供達インペルフェクツとの違いは、人々は口々に「生理的嫌悪感を感じる」ということだ。堕天使の翼を見せてもそうは思われない。そして、理由もわかっていない。


それゆえ、地上の天使はいないのだ。だからこそ、天使隊レグナーズの力の解明はほぼ進んでいない。


そして何より不思議なのは、無翼原理アーラレビスや堕天使の翼をもっている人たちは、天使の翼をもつ者に対する生理的嫌悪感が消えることだ。今まで心の底から嫌悪していた人でも、「翼が生えた人」と認識する。ただし、今まで生理的嫌悪感を感じていたことも覚えているため、しばらくは混乱するらしいが。


「ま、最近は天使を見たことがある一般人、いや、俺たちも含めた地上に住むやつらはほとんどいないがな」


これはオムニアが中国を滅ぼした後、いまだに少数いた地上付近に暮らすオムニア側の重力に従う人たちを天使隊レグナーズが迎えに来た時、わかったことらしい。


「まぁ、そんなことはどうでもいい……!?」

一瞬、塔の中の天使隊レグナーズと、一瞬目が合った気がした。まさかと思ったその瞬間。


腹から純白の翼が生えてきた。


「は……?」

意識が暗闇にのまれた。そして次の瞬間。


「よい夢は見れたか?」


大日の顔がドアップで見えた。


「どうやら助けてもらったようだな」


「む? わらわは助けてなどおらぬぞ? おぬしが上へ行こうとしたからの、予知夢の翼で眠ってもらっただけじゃ」


「……では、今まで見ていたのは夢?」

観音は腹を触る。包帯はまかれておらず、翼で貫かれたはずの傷もなかった。


「もし本当に上に行ったら、おぬしは夢の通りになっていたのじゃ」

どんな夢を見ていたかはしらんがの、と大日は続けた。


「で、ここは?」


「ここはわらわの自宅じゃよ。当然、3iの次元じゃ。よく眠っておったぞ」


「あ、観音さん起きてるの。早く始めようなの、大日さん」


「そうじゃの。観音もここに座ってくれ」

ああ、と観音は返事を返し、椅子に座った。


「じゃあ始めるぜ。今日、管理棟で起こった真実をまずは見よう……『時空探査クレライト』」


再生された録画は、真実を忠実に映し出した。

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