第22話 5月17日 管理塔へ・本命④

「飛んでいくが、その前に止血、というよりは傷口は完ぺきにふさいどくかのう」

途中で死なれても困る、と付け加える局長。不吉なこと言ってんじゃねぇよ。


「さて、これを見せるのは初めてかのう……驚かんでくれよ?」


「え? っ!?」


背中から生えたのは翼。それも、ちゃんと体につながっている、2対の翼。


「4枚の天使の翼……」


「以外かの? 天使の羽をもつわしが、オムニアを裏切る組織にいるのは」

素直に頷く俺。


「今ここで言えることは、オムニアも1枚岩というわけではない、ということじゃよ」


焼いた足から滴り始めていた血の流れが止まる。


「どうじゃ、すごいじゃろ。これがわしの翼の能力、『へい』の力じゃ」

もう一つは『かい』の力じゃ、と付け加える局長。


「開閉……そうか、だから意識が保てているんだな」


「ただのう……少し問題があって―――!」


「っ! 上か!」


「圓明、体重を0に! 飛ぶのじゃ!」


「え? 跳ぶなら」


「行くのじゃ!」

局長は俺の手をつかみ、翼をはばたかせた。


そういうことか。意識を上下に均等に向ける。


「さすがじゃの」

そのまま局長は横に飛ぶ。空中で止まると上から


「ビルが……」

ビルの一部が落ちてきた。マルイのロゴ入りの。


「まじか……」


今までいた建物は、がれきとなる。


「鍵を手に入れるどころか、壊しにきたのう……国分はだいぶ発言力を増しそうじゃ」


めんどくさそうじゃの、とぼやきながら、局長は駅の方角へと飛んで行く。それも、高度をかなり上げながら。


「駅での戦闘はまだ続いておるじゃろうから、管理棟まではこの高度で行く。旧立川高校の校庭のど真ん中に立っておるから、そこで急降下じゃ」


了解、と短く答える俺。どのみち、問題なのは急降下の時勢いを殺すことだけだ。

5分もしないうちに校舎がかろうじて見えるところまできた。


「管理塔……攻撃受けたと聞いていましたが?」


「表面上は、修復したようじゃの。降りるぞ」


「準備、できてます」


そういうと、局長ははばたくのをやめ、羽をたたむ。すると当然、重力に従い落ちてゆく。どんどん地面が近づいてくる。


……ここだ。校舎がはっきり見えるようになったところで、上に意識を向けて減速する。そして、管理塔の目の前に音もなく着地した。


「ふぅ、ごくろうじゃった。一人で飛ぶのなら、自由落下はせんでいいのじゃが、一人でも運んでおると加減がわからんからのう」

そういって俺に肩を貸す局長。


「さ、ここじゃ。ここに手をのせれば、扉が開くじゃろう」

頷き、生体認証のタッチパネルに手をのせる。


『認証確認。おかえりなさいませ、圓明楓様』


扉があいた。中に入ると、まるで宇宙船のような白く大きな部屋だった。


「圓明、気を抜くなよ」


「わかっています」

問題はここからだ。今はだれもいないが、いずれ上から天使の羽をもった人物が現れるはずだ。


そう、そう思っていたのが、気のゆるみだったのだ。


ザシュッ


「―――え?」


いきなり天使の純白の羽が、局長の体と俺の左腕を両断する。


真後ろにいた人物に全く気付けなかった。振り向くも、急激に意識が遠のく。おそらく、局長が即死したことで羽の力が切れたのだろう。


地面に倒れる前に、俺の意識はブラックアウトした。

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