第15話 5月17日 管理塔へ①
人工血液を圓明の体に入れて、早くも7日が経過している。管理塔へ向かう。
現在時刻11:00。圓明と国分隊長、そして極楽が中央線に揺られている。
「にしても、短期間でよくここまで育てたもんだな、極楽。お前、もしかして教官としてのセンスがあるんじゃないか?」
「国分隊長、それは買いかぶりすぎ。ま、圓明は体で覚えるタイプの脳筋じゃなくてちゃんと頭で理解して少し実践できればやれる奴だし、もともとの戦闘能力の下地もあったからね」
対戦形式で戦ったのは確かに初日だけだが、ほかの日に模擬戦形式で何度か戦ってみている。射撃の能力は常人レベルを軽く超えているほか、逃げ足、というよりいかに自分が逃げ切れるか、という能力も高かった。引力を用いた高速移動でも振り切られたのは極楽にとっては初めての経験だったりする。
「でもまさか、こいつがお前と同じ高速移動を身につけるなんて、俺でも予想できなかったぜ?」
隣にいる圓明の肩をたたきながら国分が極楽に言う。
「まだまだ要練習ですし、うちよりも全然遅いので奇襲用というよりか攻撃力アップ用ですけど。うちは抜き足効果が付随するので正直比べちゃいけないですが」
「ま、それもそうか。しかし、まさか局長が俺たちに任務をくれるとはなぁ。観音の隊は今回はお留守番らしいぜ?」
「え、そうなの? てっきりいつも通りの任務だとばかり思ってたのだけど」
「あぁ、観音自身が俺に伝えてきたっと……ついたぞ、気合入れろ。お前もな」
ばしばし、と圓明の背中をたたく国分。痛がるそぶりもなく、圓明は「はい」、と短く答えた。
降りたのは国分寺駅。改札を出た後、おいおいと読めるマルイの下を潜り抜け、ロータリーもどき、というか、タクシー乗り場?の道路に入る。そして右斜め前の道に入った。この後しばらく西に向けて道なりに進むことになる。食の日ではないため、眼前にはゴールデンウィーク明けというには遅いが初夏の強い日差しが照り付けていた。
「来ない?」
極楽は大きな谷を越えた後、つぶやく。そろそろ右手側に大きな公園が見えてくる、そんなところでだ。
「一つは、お前を警戒しているのは間違いないだろうな」
実は極楽が『神童』と呼ばれだしたころ、戦闘が強いわけではなかった。二つ名をもつ実力者を倒せば自分の実力を証明できるという考えがあり、一時期執拗に狙われたことがある。
しかし、その負荷がまだ発現していなかった4つ目の
その
気配だけでも感知されれば、倒すことは不可能とさえ言われるほどだった。
ゆえに、『神童』極楽桃花を殺すには、一撃目で。倒すなら、100手目まで。それでだめなら、迷わず逃げろ。そんなことわざみたいな文句が生まれたぐらいである。
だからこそ、相手は絶対に当てられるタイミングで仕掛けてくる、と考えていた。
そのため、最も警戒していたのが深い谷だった。確かに、日立製作所側のルートを使えばその谷は回避できたが、遠回りになるだけでなく、奇襲し放題の日立製作所の地形を相手側に渡すことになるので、最初に却下した。逆に、無駄に広い公園のほうが奇襲はしにくいため、ここまでくれば一安心ではある。
ただ、人の気配がほぼないことに違和感を感じた。
確かに平日の昼前、そろそろ昼食をと考えている人もいるはずだがあまりに少ない。
自治区の憲法や法律、行政機関オムニアのものに変更されたかそれに準ずる形になったが、それ以外の文化や通貨は基本的にそのままだ。通貨に関しては統一するべきという意見もあったがオムニアが通貨にアメリカドルをそのまま導入したことにより自治区の通貨は変えなくて済んだ。その代わり急激にドルは高くなったが自治区の物価はあまり変わらなかったのでFXをやっていた人は一時期勝ち組といわれていた。その後は基本的に給料はアメリカ改めオムニアドルで払われるようになったためそう呼ばれることはもうないが。
話がそれたので元に戻すが、昼時なのに人の気配がない。特に西から走ってくるはずの車がない。
その答えは、そのまま西に進み線路を超える橋を渡り、しばらく歩くと道路が回答した。
「……嘘」
4車線の十字路に大穴が開いていた。十字路すべてをそのまま沈めたかのように。
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