第11話 5月10日 戦闘訓練
午後。戦闘訓練の時間である。今回は観戦はなし。カメラ以外は。
対面する相手は初対面の女。
「くくく、まさかそう来るとは」
笑っている。当然だろう。なんせ……
「なぜかネコミミとしっぽが能力を切っても消えないんだ……」
常楽先生曰く、
「非常に珍しい常時発動型です! 割と常時発動する
と興奮気味で迫られ、そのままお持ち帰りされそうになった。
持ち帰えられてたら何をされるか分かったものではない。全力で逃げた。
その時に感じた。なぜだか、視界に移らないはずの真後ろや廊下の角の先にあるものが手に取るようにわかる。それこそ、目をつぶったままで逃げても廊下の曲がり角や人がまるで見ているかのように分かったのだ。
これが、もしかしたら猫又の
逆に、単純な身体強化については疑問符だ。正直言って、今持っている2丁の拳銃が軽く感じられているとかいう実感はない。跳躍力に関しては、どうしても上を意識してしまうため見かけの体重が軽くなり、実測不能であるし。
「あはは、もしかして常時発動型? そんなわけないよね? ということは、最初からうちに手の内をさらす舐めプですかぁ? ははは、それにしても無駄に似合うねぇ」
身長こそ平均以上だが俺の顔はかなり中性的。そのせいでおんなおとこといじめられた苦い経験が小学生時代にある。今となっては笑い話であるが。
「くくく、この笑いが止まらないうちに始めようか、戦闘訓練を。基本的なルールだけ説明しとくね。訓練場はこのフロア全体。観客席もおけ。邪魔であれば、追跡ドローンのはかいもおけだ。それから、試合形式で訓練は行い、1時間の戦闘を4回行う。例えばうちを5分で倒せば残り55分は休憩時間となる。逆に、うちを1時間で倒しきれなかった場合、そのまま休憩なしで2時間目に突入する」
「つまり倒せなかったら自分に休憩時間はなしですか」
「基本的にはね。ただ、この競技場はかなり広いから、逃げて隠れて休憩はおkだよ」
おそらく、弾などの消耗品の補給もないだろう。
「始める前に質問。俺が戦闘不能になった場合はどうなる?」
「基本は続行するね。例外として、気絶などの意識不明、腕と足の骨折で戦闘は止める。ただし、気絶の場合は起きるまでそこに放置し、起き次第続行。骨折なら治療班の処置を受け次第続行。無いとは思うけど、手や足など部位欠損した場合やうちの判断でドクターストップがかかった場合は訓練は時間前でも終了、てとこかな」
「なかなかシビアだ……」
「じゃ、始めようか!」
観客席と戦闘場を隔てる壁に時間表示。240分からのカウントダウン。
「うちの名前は
短剣……いや、ナイフか、それを抜いた。だが、切りかかってこない。……ああ、そういうことか。
「圓明楓。いんぺるふぇくつ? というのはわからないけど」
「わからない? じゃあ、確かめてみるさ!」
崩れた。俺がいた地面一帯が。
「え?」
下は大きな空洞。ずさんな工事しやがって……
意識を上に向けてから、落ちる大きめのコンクリートを蹴って地面に着地。目の前には大きな穴。
「やっぱりね」
宙に浮いている極楽。なんだか同じ感じがする……
「そういうことか。
「お、割と知ってるね。楽しめそうだよ」
現在、地球上には重力が二つある。一つはそのまま地面だが、もう一つは空中で、地球を覆うように存在する。オムニアが空中に浮いているのは実際には浮いているのではなく、空中の重力に従っているからだ。しかし、どちらの重力に従うかは任意では決められない。
しかしながら、俺や極楽のように、どちらの重力に従うか、そしてその重力にどの程度従うかを決められる者がいる。その者たちを
この能力は重力点が空中にできたとき、赤子や胎児であったものに多くあらわれたが、そのほとんどはオムニアに親とともに登って、いや、落ちていった。逆に言えば、地上にいる
「しかし、まさか浮ける人がいるとは」
俺はこの能力を半分は独学で学んだに等しい。一応、恩人が教えてくれたのだが、その人も完全に浮いてはいなかった。
極楽が口を開く。
「君もわかってると思うけど、本来うちら
「それだと、自分も浮けそうだな」
「難しいよ。それに、君は
「っ!?」
消える極楽。いや違う、急加速したのか? 俺の目の前に現れ腹を蹴り飛ばされた。
「ぐふぅ……」
吹っ飛ぶ俺。別に重力操作はしていなかったのに……それに、極楽は空気を蹴っていなかったか!?
「
「相手が
脚から壁に着地する。やはり、空間把握能力は格段に上がっているな……
バガンッ!
「は?」
後ろから壁が砕ける音が。見れば、2本の猫のしっぽが壁に突き刺さっている。そのおかげでそのまま落下することはないので助かったが。
「勝手に動いた……いや、無意識か?」
「へぇ、今日やっと意識して発現したとは聞いていたけど、もう使いこなしてるねぇ……やっぱいいねぇ、圓明は」
地面をける極楽。次の瞬間には、俺の目の前にさかさまで現れ、ナイフを振り下ろす。それを俺はパーカーを着た腕で受け流し、蹴りを放つ。
「ぐっ……」
腕で防がれるが気にせず、しっぽだけで壁伝いに横へ。うん、うまく跳べた。2発発砲。
「うわわっ!」
かわされたが、姿勢は崩した。そのまま壁を走って距離をとる。2本のしっぽを壁につきさしながら。そして3秒後、下に落ちるように壁を蹴り、1発。
「感じ取れてたよ、極楽さん」
撃った方向に、極楽が瞬間移動に見える高速移動で現れ、肩にヒット。
「うぐっ……っ」
しかし、貫通しない。その代わり、はじかれるように上へ向かう極楽。体重を0にしたことで弾が当たった時に加速され、貫通を防いだのだろう。
壁から離れる。大きな音を立て、着地する極楽。
「さすが
肩からの血が腕を伝わりナイフを赤く染めている。
「ごめん。正直なめてたわ」
右肩を出し言う極楽。その肩には、銃弾の頭が飛び出ている。骨を貫通したならそのまま貫通するはずだが……?
「っくぅ!」
左手で2本目のナイフを抜き、銃弾をはじくように除去。そして右肩を回す。
「骨に損傷は、ない? え? なんで?」
「さぁ……そういえば、石手とやりあった時も貫通したのに骨がそのままだったらしいし?」
「もしかしたら、何か他の能力が勝手に発動してるのかもね。無意識での発現はよくないから」
ふーっ、と息を大きく吐く極楽。まとう雰囲気が変わった。
「治療(ク・ラ)」
そういうなり右肩が赤黒い光に包まれる。
「身体強化なしで叩けると思ったんだけど、無理みたいだから……使わせてもらうよ」
そんな感じがしていた。高速移動の
「
「は?」
「正確には、万有引力を操作している。そしてもう一つ。
急に現れる俺の目の前に。
「この瞬間移動は、
跳べ!
「遅い」
「だろうな!」
手首だけひねって発砲。同時に真上に跳ぶって、
「おおおおおおおお!跳びすぎぃ!」
高い天井に瞬間で。腕でぶつかりその後足としっぽで天井に立つと真上……この場合は真下に発砲。
「やっぱり、いい腕だな。うらやましい」
そういうなり銃弾をデコピンで弾いた!? バケモンかこいつ! 意識を天井に向けつつ走る。ダンッ! という大きな音を立ててさっきまでいた地点に極楽がぁぁ!
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