第9話 ヨクアル ジョバン ノ ベンキョウカイテキナモノ①
さて、今日は平日の5月10日。裏の世界に引きずり込まれ、学校には行けなくなった……はずなのだが。
「さて、いきなりですがこれから5日間、午前中はみっちり講義です。午後は戦闘訓練、というよりかは、あなたに入れ墨の使い方を教える戦闘訓練になります」
なぜか講義を受けさせられている男が一人。俺じゃないと信じたいが、残念。黒板に向かうのは御年17歳の圓明楓。
対する教師はメガネが似合う美女、
「ぐう」
「その音は出ないはずなのでは?」
「思ったより出ましたね」
「そうですか。それより、そのしゃべり方はいつものしゃべり方ではありませんね?」
何で知ってる? こいつも羽持ちか?
「いやまぁ、一応目上の先生という立場でしょう? そういう人には一応、丁寧なしゃべり方にしてるんです」
「いえ、局長から初めてこちらの世界に入ったのに、肝が据わっている、と聞いていましたので」
「はぁ、そうですか」
「自覚なしですか。まあいいでしょう。では、講義を始めましょう。さて、まずは質問です」
「は? え、ちょっと!」
いきなり脱ぎ始めた。20代のあまり紫外線でやられていない張りがあって白い肌がボタンをはずすごとにあらわになる。シャツの下は黒いビキニタイプの水着であるのは謎だが。そしてボタンをすべて外すとシャツを男らしく脱ぎ捨て、後ろを向く。
「あなたはこれを見たことがありますか?」
常楽先生が後ろを向く。
そこには、黒い刺青が。首の付け根あたりには鳥居のようなマーク……というか、鳥居のマークそのもの。そこから背骨に沿って線が走っている。それは肩甲骨の間あたりで3つに分岐し、その先に大きい円とその中に絵が描かれている。
一つは歩行者用信号機の緑のマークそのまま。2つ目は……なんだ? 円の中に円があるが……それだけだ。3つ目は直線が内側に湾曲したひし形。光のエンブレムといったほうが正しいか?
「……いや、見たことはないですね」
「ですよね」
「ただ、それ、刺青……とは違うように見えます」
そう。刺青を見た時、最初は肌とのコントラストでさらに欲情したが、そのあとすぐに、違和感を感じた。
「刺青は、肌を削らないでしょう。なんですか? 古傷に落ちない墨汁で染色したようなその刺青は?」
「触りますか?」
「……まじですか?」
「まじです」
常楽先生に近づき、まずは入れ墨でない肌を触る。うん、普通の皮膚、それもかなり手入れの行き届いたすべすべの。ただなぜか感覚がないようで指を走らせてもくすぐったそうな声は聴けなかった。
次に刺青を触る。その瞬間、
「あぁっ!」
「っ……これは!?」
苦痛にあえぐ声を上げる常楽先生。この世のものではないかのような、なんとも気色悪い肌触りと、その声と、そして手のひらについた液体のせいで手を放す俺。手のひら全体を染めるのには十分な量の血が。
「せ、先生」
「落ち着いてください。両手についた血は……そうですね、私のブラウスで拭いて下さい」
「え? でも……」
「大丈夫です」
「……本当に血を拭いていいんですか? ブラウスで?」
「そうですよ? さぁ、早く座ってください。ちゃんと拭かないと後で大変なことになりますからね?」
はぁ、と生返事をし、脱ぎ捨てられたブラウスで手を拭き、席に戻る。
「さて、確認は取れました」
何の確認だ? 疑問符しか浮かばないぞ?
「君が女性の体に興味がある健全な男子であるということ」
「え? まぁ、そりゃないといえばうそになりますけども」
「それと、刺青……いえ、ここは正式名称で言いましょうか。
「こら、揺れてる私のおっぱいばかり見ずに、話をちゃんと聞きなさい」
ムッ、心外だ。確かに水着で局部が隠されている魅惑的な女性の象徴を見ていたことは否定しないが、それと同時にちゃんと考え後としていただけなのに。
「これは今後のために行っておきますが、
かなり優しい部類です、と付け加える常楽先生。
「じゃあ、俺の刺青、ええと、あーら・れびす? に先生が触ったら何か勝手に起こるということですか?」
「その通りです。ただ、それを把握している人はほとんどいません。まず、他人の
ま、まじか。今後は触らないようにしよう。
「さて、特に大事な注意事項はここまでです。きっとあなたが思った通り、むやみに他人の
「普通に羽持ちだと思ってました」
「……まさかそのように思っていたとは。本当につい1週間前ほどにこちら側に来たのですよね?」
「え? まぁ、その通りですけど、何か?」
驚きの顔から警戒するかのように険しい顔になる常楽先生。
「本来、羽持ちとはオムニアで使われています。特に、
つまり、オムニアの手先とでも思われているってことか。第零軍が動くというあのニュースも、潜入のための
逃げるか? というか、逃げられるのか? いつものパーカーは着用済み、ブーツも履いている。最低限の装備はあるが。
「本当に圓明君は、地上の人間なのか? とかいう疑念が払いきれませんね。ですが、どうでもいいことです」
「は? どうでもよくないですよねそれは!?」
予想外の答えに動揺する俺。
「ええ、私達の組織ではどうでもいいことです。実際、親オムニア派のグループには、最低一人はオムニアから潜入したものがいることがわかっていますから」
わざと泳がせてるんです、としれっという常楽先生。
「それ、俺に言っていいんですか?」
「問題ありません。そもそも、もう少し後で話す内容なのですが、私達の組織の構成を説明する段階で、このことは言うつもりでしたし。それに、潜入しているものがいると、メリットもありますから」
それはまた今度にしましょう、とこの話を切り上げる先生。
「話を戻しますが、石手さんや金剛君は羽持ちではなく、
「じゃあ、基本的に裏の世界で活動する人たちの能力、というか普通の人間には逆立ちしてもできない力は、すべて
「基本的にそう考えて問題ありません。例外はなくもないですが、その話は今日の後半で出てきます」
パンパン、と手を二回たたく常楽先生。
「さて、金剛君や石手さんの不思議な力についてわかったところで、今話題の
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