第8話 5月9日 報告会議

「来たか……報告を聞こうか、局長?」


「控えなさい。仮にも我らが長がいらしているのですよ? 我ら12副長と言えど、無礼な言葉は使うべきではありません」


「うるせーよ堅物女。で、局長さんよ? 一応俺らも戦闘データを見たが、あまり強くはないな。あの水女の剣技は素晴らしいもんだったけどな。俺の傘下に加えたいくらいに」


「まずは現状報告じゃ。圓明楓だが、刺青は6個確認された」


「……!」

「まじかよ……」


周りがざわつく。当然だ。刺青―――正式名称は無翼原理アーラ・レビスという―――は普通は3個。多くて4個だ。5個、6個はいるにはいるが、その辺にごろごろいるわけではない。ちなみに、今までの最多は8個……らしい。


「それでは局長、圓明楓は私(わたくし)達に預けるのでしょうか?」


反対意見は出ない。メガネの女は教育係としては1流なので当然ではあるが。


「いや、今回はそれはしない」


「えっ……!?」


「はぁ?」


怒号一歩手前の声が聞こえるほどざわつく。


「お言葉ですが局長、それは協定に反します。どんな過去があれ、公平な教育を受けさせどこに行くかは本人に決めさせる。その間は私以外と接触禁止です。それをたがえるのですか?」

そうだそうだー、と声が聞こえる。


「いや、理由が聞きたい」

一人だけ同意とは少し違う言葉を飛ばした。


「最近周辺がきな臭い動きをしている……局長が確保したとこっち側の世界で公開してから割とすぐから。もしかしてそれが理由か?」


「かなわんのう。その通りじゃ」


「やっぱりか……なら」


「想像の通り、近いうちに動く。1週間は準備にかかるじゃろうが。今回はわしも動く」


「おい、ちょっと待てよ……局長、それはさすがにやりすぎだぜ」


「黙っていろ、国分」


「なんだ? 意見を言うなと? そういってんのか観音?」


「そうだ」


「なんだと? お前、この後覚悟しとけよ?」


「いくらでもかかってこい。今度こそ殺してやる」


「そんなことをさせるとでも思ってんの、観音副長?」


「やめろ極楽……観音、今日はもう黙っといてやる。貸しにしておくからな」


ぎし、とパイプ椅子らしきものから音がする。


「はぁ……詳細は追って伝える。それに、教育をしないわけではない。最低限の教育はする予定じゃ。でないと使い物にならん」


他に、何か発言したい者はいるかのう? と付け加える局長。


「私から少しだけ」


その内容は、この場にいる13人を動揺させるには十分な内容だった。


「局長、このことを」


「わかっている。大日に連絡はしておこう」


この言葉で、会議は終わった。部屋に明かりがつく。そこには、局長とメガネの女が残る。


「局長……これも、計画のうちですか?」


「そう見えるか?」


「いえ、失言でした。あ、たばこならちゃんと喫煙所で吸ってくださいよ?」


次破ったら殺しますよ、という言葉はリアリティーがありすぎて渋々部屋から出た局長であった。

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