第9話 冬川 嬰疾
「……」
「このクソ水晶野郎」
悠人が手を翳すと、水晶体が鋭く少年に迫る。少年は立ち上がり、両手に剣を持ち、軽やかなスピードで水晶体を
「
彼の詠唱が終わると、彼の持つ剣の刃先に風が纏う。そして、廃墟に辿り着いた未來と龍郎はその戦いを見ていた。
「これって……」
「嗚呼、風竜だ」
少年は風を纏った剣で、水晶体を切り捨て、悠人へと向かう。悠人はほぼ全ての水晶体を切り捨てられたことに驚き、咄嗟に鳴動影で防いだが、鳴動影は軽々と切断された。
「……!」
「無駄」
少年は悠人の目の前に立ち、剣を構える。その刹那、悠人は如何なる抵抗もできなかった。そして、一撃悠人は被り、負傷させた。だが、それは深い傷に至らない。そのまま、悠人は影の中に溶け込み、逃げていった。
「くそ野郎……」
少年は双剣を持ち、悔しそうに静かな嘆きを見せた。
「あ、あの……」
少年は竜眞の方を無言で見る。
「だ、誰……?」
「あ、俺は、
嬰疾と名乗った少年の腕は少し痣の様な跡があった。
「なんでにぃちゃんと戦ってたんだ?」
「闇龍に乗っ取られてたから」
それから、雷牙たちは少年団について、悠人の現在について話した。
「なるほど、つまりあいつはあんたの兄ってことか」
雷牙はゆっくりと頷いた。
「その少年団……俺も入っていいか?」
一同は突然の言葉に吃驚した。
「で、でもあなた竜遣いなの?」
「嗚呼」
彼は腕にある痣のようなものを見せる。雷牙たちが凝視するとそれは痣のように赤い色をした竜の鱗だった。
「うわ、これ鱗?」
「嗚呼、俺は竜遣いなんだけどさ……その竜と融合したらしくて」
「融合!?」
雷牙は気になって、嬰疾の腕にある鱗を見る。
「かっけぇ……」
「そ、そうか……?」
雷牙はテンションを上げて、うんうんと頷いてる。
「乗っ取りとは別現象なのかしら……?」
「一応、自我はあるらしいし、あんな風に部分的に竜がいるのは乗っ取りにしては妙だな……」
未來と龍郎は初めて見たその事象に少なくとも不審感を抱いていた。それは希美も僅かに思考していた。そして未來が口を開いた。
「嬰疾くん、それは乗っ取りでできたの?」
「うーん、俺もよくわかんねぇけど、闇龍に殺されかけた時に目を開けたら俺の身体にリグストが付いたんだ……多分、『共鳴』っていうことになったのかな」
嬰疾の言葉は確かに自我が確り持っている様な口ぶりで、二人は渋々でありながらも。一旦に嬰疾の事を信じる事にした。
「ところで、なんで悠人の事を知ってたんだ?」
それは龍郎の質問だった。嬰疾は明朗に口を開き応え始める。
「嗚呼、あいつは元々友達だったんだ、って言ってもそんな親しいもんじゃないけどな」
「友達……」
「だから助けたいんだ、絶対」
嬰疾は少し俯いて、使命の様に語った。雷牙もふと同じ様な感覚に溺れる。
「それにしても、あなた、かなり強かったね」
「よく
嬰疾は出口から笑ってしまうほどに雲の一つない空を見た。
「嬰疾さん……」
ウーユがゆっくり恐れながら嬰疾へ近づく。
「その声はウーユか……彼奴のやりそうなことだな、どうせウーユが嫌って言ったから遠ざけたんだろ?彼奴」
「う、うん……」
ウーユは俯いて応える。一方、悠人は巣窟の奥地、『第二層』と呼ばれるところに来ていた。勿論、闇龍の手招きだ。
『ここに来させて何のつもりだ』
「何でもいいだろう、お前には関係がない」
悠人はその言葉に少し思考したのちに、反論をした。
『悪いが、依代として俺の身体を勝手に使ってるなら、俺にお前の都合くらい話すべきだろう』
闇龍はその言葉が少しでも癪に障ったのか、少し苛ついた様に唸るが、溜息をついた。
「ふん、そこまで聞きたいのなら喋ってやろう、俺はこの世界を壊す、その為なら何だって壊すさ……子供も女も
『そっか……』
悠人は少年団の救いを待つ事しかできなかった。虚しくなるほどに無力な自分に僅かながらも苛立っていた。そんな気持ちがあるという事を、この時の闇龍は知りもしないまま悠人をただの器として軽視していた。
「なるほど、悠人の事を乗っ取った奴はこれまで見た事ないほど強いのか」
「嗚呼、未來と俺は奴のことを水晶闇龍と呼ぶことにした……その水晶闇龍はこれといった属性を持たなくて逆に殆どの属性を網羅したような攻撃をしてくる、今までの戦いで火と氷、影と水晶を使うことは分かってる」
「成程ね……確かにかなり手強そうな話だな」
龍郎は暫く嬰疾の体躯を見て思考する。そして思いついた様に言葉にした。
「嬰疾、少し悪いが戦っていいか?」
「え?べ、別にいいけど……」
二人は武器を構えて、戦闘の用意に掛かる。
「まぁ、あまり身構えなくていいよ、君の実力を測るだけだから」
「能力は使ってもいい?」
「嗚呼、構わないよ」
嬰疾は把握した刹那に、
「うん、やっぱ風竜の遣い手か」
それを急く様に龍郎は
「雷竜か……相手にして不足無しだな」
嬰疾は挑戦的な笑みを浮かべて、双剣を抜刀して先手に転ずる。
「
双剣の刃には風が纏う。そのまま、
「やるじゃん」
龍郎はそれを防ぎ攻撃へ転じようと剣で嬰疾を空に飛ばした。龍郎は追い詰める様に跳び上がり嬰疾へ迫る。だのに、嬰疾は笑んでいた。
「
嬰疾がその名を告げると、風が集いて一つの斬撃と化して龍郎へ向かう。
「成程、面白い能力だな……
斬撃は光で作られた盾に防がれて消えた。
「ならこれでどうだ」
嬰疾は双剣で、龍郎の展開した
「おっと、想定外だな……まさか
「その割には余裕じゃん」
龍郎は嬰疾に得意顔で応える。
「嗚呼、能力はまだあるからな……
龍郎の詠唱を聞いた刹那、嬰疾は警戒したが、その間を切る様に、嬰疾の視界は閃光に眩まされる。嬰疾は動きを止められ体躯に隙を持ち合わせてしまう。龍郎はその隙を逃す事なく、嬰疾へ攻撃を仕掛けた。嬰疾は龍郎の剣を防ぎ、挑戦的微笑を貼る。
「成程、嬰疾の力量が少し分かった気がしたよ」
「ならよかった」
嬰疾は双剣を下ろし、納刀した。龍郎も剣を納刀し息をついた。その瞬間に事はやってきた。雷牙が静かに苦しみの呻き声をあげ始めたのだ。それは雷牙の首を絞めた悠人の顕現だった。
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