第8話 襲撃

「あの音は……」

 

「かなり大規模な能力だな」

 

「もしかして光闇融解メルトダウンじゃ……?」

 

 龍郎は目を見開き吃驚した。

 

光闇融解メルトダウンって……」

 

「ええ、使用後は使用した本人の意識が悪に染まる可能性があるって」

 

 龍郎はふと悪い予感が脳を過った。考えたくもない絶望の思案が。

 

「龍郎さん!未来さん!」

 

 唐突に息を荒げて、廃墟に来たのは帰還してきた竜眞だった。

 

「ハクは!?」

 

「ハクは、俺を巣窟から逃して自分を犠牲に……」

 

 龍郎は無言で竜眞の肩に手を乗せたのちに、出口へ向かう。

 

「龍郎さん……」

 

「雷牙とガナリのこと、見ておいてくれ」

 

 龍郎と未來は巣窟へと向かっていった。

 

「でも、私たちの力でも勝てないわよ」

 

「闇龍の力を削ぐことができればそれでいい」

 

「分かったわ」

 

 その頃、廃墟で自警を努めている最年少の男の子、ノウスは廃墟の誰も入らない部屋にいた。

 

「みんな、頑張ってるのに、僕だけ何も出来てない……」

 

 自らの力量に悲観しながら、その部屋を彷徨いていた。そんな時、彼は一枚の紙を見る。

 

「何これ?……少年団僕たちの字の形と違う……『雷轟らいごううた』?」

 

「雷の竜と契った竜遣いが使える能力……?雷牙さん……が使えるってこと?」

 

 ノウスは部屋を出て、雷牙の個室へと向かった。でも、扉の前でふと止まってしまった。雷牙はいつも突き進んでばかりの性格で、このことを伝えてしまったら、また無謀に悠人を救いに行ってしまう。そんな思いが彼を立ち止まらせてしまう。そんなことを考えていると、扉が開き空いたコップを二つ持った竜眞が出てきた。

 

「うわ、ノウス、なんでそこにいるんだ?」

 

「う、ううん、なんでもないよ」

 

 ノウスは咄嗟に紙を背に隠す。ノウスの反応に竜眞は少し首を傾げたが、見過ごすことにして話題を変えた。

 

「あ、ノウスもココア飲む?」

 

「え?昨日も飲まなかった?」

 

「いやさぁ、それがそろそろ賞味期限がやばいらしくて、そのくせ大量にあるから消費に困ってんだよ」

 

「なら、僕も飲むよ」

 

「さんきゅ」

 

 竜眞とノウスはキッチンに向かって、食器棚から新しくコップを一つ取り、ココアパウダーを取り出してココアを作り始める。

 

「ミルクか水、どっちがいい?」

 

「ミルクでいいよ」

 

「おっけー」

 

 ちなみに水は基本的に、希美の持つ水竜であるスラルから供給している。また火も火竜、電気も雷竜、それ故に基本ライフラインと呼ばれる電気やガス、水道には困らない。

 

「はい、できたよ」

 

「ありがとう」

 

 竜眞はミルクココアの入ったコップ一つをノウスへ手渡した。そして、竜眞は二つのコップを持って、雷牙の部屋へ向かおうとする。

 

「ねぇ、僕も行っていい?雷牙さんの部屋に」

 

「あぁ、いいよ……そろそろあいつの部屋掃除しないといけないし」

 

「あはは……」

 

 二人は雷牙の部屋に入る。するとそこには、希美が座っていた。そして、予想通り汚い。なぜか二段式のベッドには雷牙とガナリが横になっていた。先ほどまで、希美と竜眞の二人で看ていたのだ。

 

「ありがとう」

 

「あいつらの調子は?」

 

「まだまだ起きないわよ」

 

「そうか」

 

 竜眞は希美の隣に座りながら話していた。ノウスもゆっくりと竜眞の隣に座る。

 

「ほんと、雷牙とガナリは無茶しかしないんだから……」

 

「まあ、いつものことだろ」

 

 希美はココアを飲んでから再び話す。

 

「竜眞も危ないんだからねぇ、自分の身、ちょっとは大切にしなさいよ」

 

「ごめんってば……」

 

 竜眞は少し目線を落として呟いた。

 

「ハクのやつ、大丈夫かな……?」

 

「ハク……少年団で確か強い方だったよね……」

 

「嗚呼、それなのに惨敗だからな……」

 

 二人は悠人の圧倒的な力に僅かな自信が更に音を立てて削がれていく様な思いに苛まれた。

 

「そういえば、ノウスの竜はまだ帰ってきてないのか?」

 

「う、うん……まだ帰れなさそうなんだ……」

 

「そうか……もうすぐで半年になるよな」

 

「うん……」

 

 その頃、巣窟では未來と龍郎が辿り着いたのだがそこに見えた光景は異常なものだった。ハクは隅で倒れていて、巣窟の中央には大きな水晶らしきものが聳え立っていた。

 

「これは……?」

 

「水晶闇龍か……通りで手強いわけだ」

 

「水晶闇龍!?」

 

 水晶闇龍、水晶を武器として用いることのできる闇龍であり、その強さはどんな闇龍をも凌ぐと言われている。

 

「どうしてこんな龍が今になって……」

 

「分からない……取り敢えずハクを助けて撤退するぞ、これはどうにもできない」

 

 龍郎は竜に乗って、ハクを救い上げて帰還した。それを把握していた悠人は振り向きもせずただ、仄かに笑っていた。

 

「ん……」

 

「あ、雷牙起きた」

 

 廃墟では、雷牙が起き上がっていた。

 

「よかった……」

 

「……にぃちゃん、あんなに強いのになんで乗っ取られたんだろう?」

 

 雷牙が悠人に対し、不審感を抱き始めた刹那に事は起こった。扉の先から異様な轟音が鳴いたのだ。雷牙たちが扉の先を見に開くと、見知らぬ少年が血反吐剥いて、出口の方を睨めた。導かれる様に一同が焦点を移すと出口の方には悠人が立っていた。

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