第4話 兄弟戦線・一
翌朝、最初に起きたのは雷牙だった。
「ふぁーあ、
そこには、少年団のアジトに置かれた椅子にぽつりと座っている人形状態のウーユがいた。そして、訳もわからず泣いている。
「雷牙、さん……?」
「だ、大丈夫か?」
「う、うん……」
すると最初の雷牙の声に起こされた少年団達が、ぞろぞろと集まってきた。
「如何したの?」
「起きたら、ウーユが泣いたままここに座ってて……」
彼女はウーユに駆けつけて、否応を訊いた。
「ウーユ、如何したの?」
「悠人さんが……みんなと戦いたくないならここに行けって……」
彼女は龍郎の方を向いた。
「あいつ……自分一人で抱え込む気か」
龍郎は外の天に浮かぶ青の空を見つめて、悠人を想ってみる。
「事は急げだ、今日から悠人を助けに行くぞ」
「嗚呼!」
雷牙は声を大にして応えた。少年団は雷牙と龍郎の背を追う形で、悠人の救出に向かった。目的地は闇龍の巨大巣窟、嘗て地盤が落下し複数の骸が塗れている。そしてやがて目的地に辿り着く。
「……来たか、少年団」
悠人に乗っ取った闇龍は勘づいた。振り返り、雷牙の方を向く。
「悠人……!」
「…………」
悠人は雷牙を睨めた。
「にぃちゃん、絶対助ける……」
夏日の薄明、兄弟は相対する。それは敵対の相対と呼称するべくだ。悠人が一つ手を振れば、二人の周りの地面は氷を敷かれる。
「ガナリ!」
「おうよ!」
雷牙の声に合わせ、ガナリが人型の姿で現れる。
「どりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
ガナリは悠人に向けて槍で攻撃を図る。その瞬息を持ってして、悠人は氷の地面から浮き出る様に氷柱を作る。それはガナリを空に飛ばし、先手を阻止させた。
「ガナリ!くっ……!」
続けて雷牙が悠人へ迫る。悠人は雷牙の攻撃を軽やかに剣で防いだ。
「無駄……」
「無駄でもにぃちゃんを助けたいから!」
このままでは埒が明かないと思考したか龍郎が悠人に攻撃を仕掛ける。が、それはどこからか湧いて出てきた槍に防がれる。
「何人で来たって無駄だよ」
「悠人……!」
悠人は地面を踏み込むとすぐ周りに氷柱が顕現して、二人は即座に退いた。
「俺も行ってくる」
「ハク!?」
「なぁに、少しやり返したいだけだ」
ハクは上から飛び降りて、悠人を上から狙う。
「鬱陶しい」
悠人は手を翳し、火を放つ。ハクは第一撃を費やして火を断った。視界は明瞭、対象は目前、抜けは無かった、筈だった。そのまま第二撃に繰り込もうとした瞬間、悠人を守る様にして現れた氷柱によって、剣を折られる。
「……!」
その瞬間、刹那的にもハクの全身に隙が生まれた。ハクの横からこちら目掛けて飛んできた
「ハク!」
雷牙はハクの安否を案じて、ふと敵である悠人から目線を逸らしてしまう。その瞬間、雷牙の影から大きな手の様な鳴動影が
「雷牙、後ろっ!」
雷牙は龍郎の声に誘われて、後ろを振り向いた。その頃には遅くて、雷牙の体躯を遥かに包み込む様に拡張された鳴動影が目の前に迫っていた。雷牙は抵抗の姿勢を構えることもできずに、鳴動影の弾き飛ばしをまんまと被り、地面に投げ出されてしまう。
「雷牙!」
悠人は龍郎の影から鳴動影を顕現させて、間も無く龍郎の身体に巻き付くかの様に絞め始める。
「くっ……悠人!」
「…………」
悠人は返事を返さなかった。そして、更に悠人を絞めたまま、空にあげる。それを
「くそっ……!」
氷の盾はガナリの攻撃に
「寄って
悠人は両手を大きく出すと、左手には火が、右手には槍が出現する。悠人は槍を握り、盾を刹那的に消滅させてからガナリに攻撃をする。その際の隙はまるで無くてガナリは攻撃を避けようとしたが、頬を掠った。
「……悠人」
「戦ったって無駄なのによく頑張るね」
悠人は余裕だとかますか、仄かにそれでいて高らかにガナリを、雷牙を、
「お前!」
ガナリはその廉価な挑発の壺に自ら陥り、声を態々と荒げて、無作法に槍を持って悠人へ思いのままに切り掛かる。悠人はそれに怯むなんて事は無く、ガナリの影から幾つもの鳴動影を顕現させて、鳴動影の一つ一つが意志を持った様に攻撃を仕掛けてくる。
「こいつ!」
ガナリは鳴動影を一つ一つ潰していくが、それでは対処しきれない程、大量の鳴動影がいた。
「ガナリ!」
「く、そ……」
強く身体を絞められたガナリは、明らか身動きなど取れるわけがない。必死の縋りで一つの鳴動影を切り裂き、槍の握った片手を自由にさせる。そして、その刃を悠人に向ける。秒針一つ動くか否か、その僅かな時間だった。悠人はガナリの腹部へと先手、槍を刺していた。ガナリは血を吹いたが、まだ
「雷牙!」
「うん!」
雷牙は龍郎の声で、ガナリの応援に向かった。竜眞は弓を構えて、龍郎を絞める鳴動影を狙う。が、それ無駄とされたか、竜眞は横から来た鳴動影に身体を強打されて、倒される。
「竜眞!大丈夫!?」
「
雷牙の純情なまでに愚かな攻撃は、簡単に氷で防がれてしまう。
「にぃちゃん!」
悠人は応えない。無言で敵対を続ける。雷牙は届けという必死な思いで何度もびくともしない氷の盾を攻撃する。そこにはもう策略なんてものは微塵も無かった。
「にぃちゃんは必ず助けるから!」
その容姿はあまりにも無様で、あまりにも無計画だった。悠人は剣を抜刀した。その剣の色は以前と異なり、強く水色の光を帯びていた。
「その剣……もしかして闇龍!」
悠人は雷牙へ攻撃を仕掛ける。それを咄嗟に防ぐと、辺りに強風が喚いた。
「……倒せないよ、
悠人はさらに剣に火を纏わせて、雷牙に振り落とす。雷牙は反撃の鏑矢も射れず、防戦一方を強いられていた。
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