第3話 それぞれの覚悟

「これでしばらくは大丈夫ね」

 

「ありがと……」

 

 龍郎は気を失ったままで、未だに起きる様子を見せない。直後、悠人の救出作戦会議が始まった。

 

「見た感じだと、悠人を乗っ取った闇龍は、火、氷の魔法攻撃と影による移動、武具の突如出現を使える、かなり手強い相手ね」

 

「影による移動ってことは、そこにある影から出たり消えたりできるってこと……?」

 

「恐らくそうだと思う、こんな能力、初めて見たし詳しいことはまだ分からないけど……」

 

 ハクは起き上がり、うんざりする様な溜息をついて壁にもたれる。

 

「悠人がねぇ……戦ってたけど普通に強いし、少年団じゃ勝てないだろうね」

 

「ハク……」

 

 ハクの言葉は嫌気の刺す様に棘があって、妙に痛々しい。

 

「ならやっぱり私たちの力がいるかしら……でも、龍郎がここまで追い詰められたのは初めてよ……」

 

「俺、悠人にぃちゃんのこと、絶対助ける」

 

 声を上げたのは雷牙だった。一同は雷牙の方を向いた。

 

「でも、悠人だけじゃ!」

 

「でも!誰も助けなきゃ、にぃちゃんはずっとあんなんなんでしょ……そんなの耐えれないから!」

 

 未來はその愚直すぎた言葉に喉を詰める。

 

「にぃちゃんを助けるのに、理由はいらないでしょ」

 

「雷牙に何言っても無駄か」

 

 ハクは諦めた様に笑った。そうして続ける様に告げた。

 

「無理でもやろうか、悠人を救いに」

 

「ハクまで何言ってんの!?」

 

「じゃあ訊こう、嘗てこいつが一度言ったことを仕方なく曲げる奴だったか?」

 

 ハクの問いに彼女は諦めの溜息を落とした。

 

「分かったわよ、もう雷牙ったら……」

 

 雷牙は悠人を助ける、そんな純情に似た何かを抱えて、その為の日々が始まった。

 

 その頃、悠人は闇龍の棲家にいた。

 

「さて、依代は手に入れたな」

 

 目の前には、撃退対象の闇龍がぐうたらと居座っている。

 

「俺を依代にして如何する気だ?その答えによっては、容赦はないぞ」

 

「ほう?勝てないくせに抵抗の意思を見せるか」

 

 闇龍は悠人に迫り、悠人の胸をその鋭い爪で浅く血が滲む程に縦になぞる。悠人は顔色一つも変えず、闇龍を睨めた。

 

「…………ふ、生意気な餓鬼だ、これで臆さないとはかなり肝が据わってるか、それとも震え上がって声も出ないかの二択だな」

 

「悪いが、俺はお前に怯まないし、お前をいつか倒してやるよ」

 

「そう言ってられるのも今のうちだがな……」

 

 闇龍は仄かに悠人を笑った。悠人は地面に無警戒にも寝始めた。闇龍はいつでも悠人を殺せたが、手を掛けずに不愉快な感想を抱きながら、悠人と共に夜を過ごすことにした。悠人は闇龍が眠ったのを測り目を覚ます。

 

「ウーユ」

 

 名を呼ばれて、ウーユは悠人の目の前に現れた。

 

「ねぇ、僕ら大丈夫なの?闇龍に殺されたりしない?」

 

「分かんない、多分直ぐには殺さないでしょ折角の依代だ、用が済むまではそんなこと考えないだろうな」

 

 ウーユは少し行動に詰まったが、頷いてみた。ウーユは不安を完全に拭えていなかったが、今は悠人を信じるしかなかった。

 

「……ガナリ達と、戦うの?」

 

 ウーユは抱え続けた問いを暫く間を空けたのち、悠人に訊いた。

 

「だろうな」

 

「……僕、ガナリおにいちゃんと戦いたくないよ」

 

 ウーユは泣きそうになった声で、弱く応えた。

 

「……そうか、なら少年団あいつらの味方してていいよ」

 

「え…………?」

 

 悠人は少し心悲うらがなしい目をして話を続ける。

 

「俺は今、あいつらの敵だ……敵対するしかない、それで態々お前にまで嫌な思いをさせたくない」

 

「でも、それじゃあ悠人さんが!」

 

「大丈夫、俺はそんな容易く死ぬ餓鬼じゃない」

 

 悠人はウーユの頭を撫でて、微笑みを浮かべながら応えた。

 

「先に彼処に戻ってろ、俺も必ず帰ってくるからさ」

 

 ウーユは泣く泣くの思いで、竜の姿に戻って空に舞った。今日は皮肉かの様に明るく満天の星空が輝いている。ウーユはその黒い体躯を浮かばせて、月光を反射さす。悠人は自分の掌を見る。

 

「頑張れよ、弱虫龍ウーユ

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