第2話 闇龍の猛攻

「おかえりなさい!悠人さんは?」

 

 三人は、彼に先程の偵察で起きた事を噛み砕いて話した。

 

「そっか……雷牙さんは大丈夫?」

 

「あ、嗚呼……そんなに深くないし」

 

 そう言って雷牙は乱雑に置かれたベットに横たわる。

 

「悠人にぃちゃん……」

 

 雷牙の視界は天井という名の虚に溺れて、手を虚空に伸ばす。

 

「……あ、私、雷牙の両親、呼んでくるわ」

 

「う、うん……」

 

 彼女は小走りで廃墟を出ていった。そして、暫くした後に駆けて廃墟に雷牙の両親がやってきた。やってきたなりに母親の未來が、雷牙の安否を確認してくる。

 

「雷牙、大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫だってば……」

 

「本当に?」

 

 そう、彼女は大がつく程の心配症なのだ。未來は雷牙の両の手を強奪する様に握って、今にも涙が溢れてみようと試んでいる位の泣き顔を実の息子に平然と晒し始めた。

 

本当ほんとだってば……」

 

「ところで、悠人は?」

 

「実は、悠人は……闇龍に身体を乗っ取られて……」

 

 彼女がそう応えると、両親の二人は互いを見て、相互に理解して頷く。

 

「その闇龍、恐らくかなり強いな」

 

「ええ、うちらの中でも悠人が一、二を争う位に強いのよ」

 

「確かに……少年団の中でもかなり強い部類には入るけど……」

 

 彼女は両親の情報と擦り合わせて、今回の件の内に孕んだ壮大さを身に気づかせる。

 

「もしかしたら、うちらでも戦えるか如何どうか……」

 

 そんな世迷言に一同が釣られていた刹那、廃墟の入り口から飛ばされた様に白髪の少年が、壁に衝突する。

 

「ハク!?」

 

 彼の名はハクという。ハクは重傷を負った身体で立ち上がり、入り口の先を睨めていた。そこには悠人がいた。

 

「悠人……」

 

「…………」

 

 悠人は応えることもせず、ハクに迫る。ハクの目前に直立し、見下している。実父の龍郎たつろは、悠人の次なる攻撃を止めるべく背後から剣で攻撃を仕掛けてみるが、悠人は寸前で振り返り片手で剣を止めた。

 

「……こいつ!」

 

 悠人は龍郎の方を向いて、右手に火を抱えている。龍郎は変わってしまった悠人の瞳を見る。

 

「悠人……」

 

「……邪魔」

 

 悠人は龍郎に駆け行き、手に抱えた炎を龍郎に投げる。龍郎は影から触手を出して、炎を打ち消した。一瞬息ひとしゅんそくの速度で触手を屠り、剣で龍郎の首を狙う。龍郎は反応に遅れて頬を浅く切られる。龍郎はまだ諦めずに攻撃を仕掛けてみたが、悠人は地面に滾る炎と鋭利に尖った氷が龍郎に迫る。龍郎の危機に未來が飛び込む様に悠人へ攻撃を計ったが、未來の影に溶けて、姿を消した。

 

「火に氷、さらには影か……厄介だな」

 

 龍郎は体勢を立て直して、再撃に備えたが、見誤ったか、上から降り注ぐ槍の集まりに寸前まで気が付かなかった。

 

「父ちゃん、上!」

 

 雷牙の声を以てして、上を見上げ漸く事態を把握した龍郎は剣を振るうことで身に向かって落ちてきた槍達を粉々にして難を逃れた。と思った矢先、龍郎は誰か鋭い獣に背中を抉られる様な痛みを感じた。背後を見ると、自身の影から表れた悠人に背中を引っ掻かれていた。目に見えて分かるほど、露骨に大量の血液が驚くほどの鮮明な赤を成して地に自由落下を図っていた。そんな須臾しゅゆに近しい時間をったのちに龍郎は意識を失って地に向かって崩れ果てた。

 

「龍郎!」

 

 未來は声を荒げて、龍郎の身体を揺らして否応を問う。龍郎は応えられずに目を閉じていた。

 

「龍郎ぉ!!」

 

 未來は龍郎が死んだんじゃないかという様な程の泣きっ面で名前を叫んだ。

 

「父ちゃん、生きてるって……」

 

「……」

 

 その光景を悠人は見下す様に見ている。今まさに殺しにかかる勢いだ。その姿に、雷牙は静かに自らの身体に警鐘を鳴動させる。すると、その警鐘が告げた通り、悠人は未來に向けて当てようとしている槍をくうに表す。雷牙は思考より先に行動をという悪びれた考えの元、無計画に未來を守る様に立った。容赦なく、槍は降り注ぎその一つ一つが雷牙の命を虎視眈々に奪い取ろうと迫る。それは、フレームにも満たない刹那の秒読みカウントダウンを辿る。

 

「いくぞ、ガナリ!」

 

「おうよ!」

 

 何処からともなく呼ばれた少年、ガナリは手から雷撃を放ち、きっさきの鋭い槍を砕いた。悠人はガナリの出現を芳しくないと感じたか、舌打ちをする。

 

「……」

 

 雷牙は気づく。悠人の瞳を凝視してみると、そこには悠人とは思えない程、凍てついた残酷な瞳があった。

 

「悠人にぃちゃん……」

 

「悠人……」

 

 悠人が手を翳せば、てのひらに火を纏っていた。ガナリは悠人の攻撃を防ごうと金に輝いた槍を出して、火を槍にて防ぎ切る。そして、ガナリは槍で以て、攻撃を仕掛ける。悠人はふと、後退あとずさるが身体に浅い切創が生まれ、再度舌打ちする。が、即座に悠人は攻撃に飜る。悠人の両の手には、炎と氷があった。ガナリは体勢を取り戻すのに間に合わず、地面に占められた炎と氷に身を包まれる。ガナリは槍を振って、周りのそれが晴れれば、空の方から槍が幾つも落下する。ガナリはすぐさま上を見上げ把握し、抵抗に槍を振るう。それを隙と見たか、悠人はガナリの影から出現し、背後からガナリの身体を深く引っ掻いた。ガナリは血反吐を吐くも、未だに抵抗の瞳を抱えて、悠人に攻撃を仕掛けようとした刹那、悠人はガナリの影に溶け込んでその姿を消失した。

 

「糞……逃したか、主、大丈夫かぁ?」

 

「ああ、俺は大丈夫だけど……」

 

 雷牙とガナリは上を見上げると、降ってきた槍達によって、開けられた天井があり、床に目を見張れば幾つもの槍が突き刺さっていた。

 

「悠人、乗っ取られたんだな……闇龍に」

 

「うん……」

 

 未來は龍郎を横にして、応急処置を龍郎とガナリに施した。

 

「これでしばらくは大丈夫ね」

 

「ありがと……」

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