セストロピア旅行記 外伝

柱木 白獣

雷轟の唄/水光の唄

水晶闇龍

第1話 異変

 ここは最羅町いとらちょう、嘗ては人間によって栄えた街だった。今となっては、その姿は何処か人気は廃れ切って仕舞い、栄えなどとは程遠い沈黙が降っていた。その街中を歩いていたのは一人の少年だった。人のいない街の癖に太陽だけが憎たらしいほど、その日射を強く地を熱する。環境さえ整えれば、恐らく目玉焼きだって焼ける。そんな暑さをしてる。

 

あちぃ…」

 

 彼は今、とある廃墟に向かっていた。そして、廃墟に辿り着き、中に入ると三人の少年少女がいた。

 

「雷牙、待ってたよ……ってあれ悠人は?」

 

「にぃちゃん、なんかまだやることあるってさ」

 

「ふぅーん……」

 

 雷牙と呼ばれた少年は、大の大人が座れば軋みかけそうに古びた椅子に座って話し続ける。

 

「あの二人は?」

 

「相変わらず来る気が無いみたいよ、そこらへんでも廻ってんじゃない、二人で」

 

「今日ってなんかすることあったっけ……」

 

 雷牙のその言葉を聞いて怒ったか、彼女は手を腰に置いて呆れ返るように告げる。

 

「もう!なんで昨日言ったことが覚えられないのよぉー!今日は、私と雷牙と悠人と竜眞の四人で闇龍の偵察って言ったでしょう!?」

 

「嗚呼、そうだったな」

 

「そうだったなって、あんた……」

 

 そこに横槍を入れる形で竜眞が会話に混ざった。

 

「何言っても無駄だろ、こいつすぐに忘れるし」

 

「そうだったわ……」

 

「で、着いたけど?」

 

 一同は、唐突に来た背後からの声に驚き、後ろを振り返る。そこには、雷牙の実兄である悠人がいた。

 

「に、にぃちゃん……吃驚びっくりさせないでよ……」

 

「悪かった、で、今日は偵察だよな、いくか」

 

「う、うん……」

 

 四人の偵察は悠人の到着を以てしてその幕を上げた。四人の偵察の道中、ただ廃墟の並ぶ街が彼らの瞳に映っていた。

 

「にしても本当に何もない……見れば見るだけ世紀末って感じ」

 

「ここは忌み子の国、それが普通」

 

 悠人は吐き捨てる様にその言葉を告げた。そして、四人はやけに広く開けた場所に辿り着く。そこには奥の方で闇龍が空を舞っている。

 

「これが、闇龍……」

 

 闇龍はその距離でも分かるくらい大きくて、その体躯は同時に計り知れない威圧感に満ちていた。そして、闇龍はこちらに気がついたのか、四人の方へ向かってくる。

 

「やば、気づかれた!?」

 

るしかないか」

 

 悠人は立ち上がり、右手を伸ばせば鬼火の様に紫がかった炎が手に宿る。悠人は続けてそれを火玉として、投げる様に闇龍へとぶつけるが、闇龍はそれを容易く火で制し、次に悠人に向けて雷を落とした。

 

「悠人!?」

 

 三人はその時の悠人を雷の激しい光の所為で観測することはできなかった。ただ、雷が止むと、そこには闇龍の姿がなかった。そして、悠人が苦しそうに胸倉を自らの手で掴み、天を仰いでいた。


「にぃ、ちゃん……?」

 

 雷牙はゆっくりと悠人に近づく。悠人は背を向けて、激しい呼吸を繰り返している。その呼吸は次第にゆっくり落ち着いていく。雷牙はふと安堵したが、忽ちに空気は一変した。悠人から異質な雰囲気を感じ取った。雷牙はふとこれから大変なことが起きるという謎の危機感に落とされた。

 

「悠人は大丈夫!?」

 

 痺れを切らした二人がこっちにやってくる。雷牙は振り返って、根拠もないまま叫んだ。

 

「こっちに来るな!悠人が!」

 

 刹那、悠人のいるところから爆発が起こった。雷牙は背面から飛ばされ、地面に伏す。起き上がり、悠人の方を見た。そこには、悠人が見下すように雷牙を眺めていた。

 

「にぃちゃん……?」

 

 悠人は雷牙の言葉をそれ置いて、首根っこを掴み上げて持ち上げる。悠人は爪を立ててその手に力を入れて、雷牙の首を絞める。

 

「い、痛い……」

 

 やがて爪は、雷牙の首に食い込み、そこから血が垂れている。

 

「あいつ!」

 

 竜眞は弓矢を取り出し、悠人を狙う。

 

「やめて……!うちらじゃ、勝てない……」

 

「だけど!」

 

 悠人は味を占めたか、雷牙を捨てるように放ち、自身の影へ溶ける様に去っていった。

 

「あいつ……」

 

「雷牙、大丈夫?」

 

 彼女は雷牙の安否を確認するべく、雷牙の元へ駆け寄った。雷牙は息をして身体が酸素を希っていた。

 

「だ、大丈夫……」

 

「一体何が……?」

 

 雷牙は口を噤んだが、一寸の間を演じ切った後、開口する。

 

「俺もよくわかんねぇけど……もしかしたらにぃちゃん、闇龍に身体乗っ取られたんだと思う」

 

 雷牙の言葉は、他の二人に吃驚を与えた。

 

「乗っ取りって……」

 

「俺も信じたくないけど、あんなにぃちゃん見たことないし……」

 

「一回帰って、このことを少年団で共有しよう、話はそれからだと思う」

 

 彼女の意見に二人は同意した。三人は先程の廃墟に帰還した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る