第5話 幹太の知恵
「ちは~。先生」
「おおー、幹太。・・待っていたぞ」
「そうすか。どうも・・・」
「ん?なにやら浮かぬ顔しているな?」
「いえいえ、アッシはこの通り元気ですが、ちょいと野暮用が溜まっちゃって、
このところ寝不足なんで・・・。 で、例のアッシの夢は解けましたんで?」
「勿論、解けたし、それを裏付ける証拠も提出できよう。・・・逆にわたしの例の
頼みの一件はどうしたか」
「それは、もうバッチリで・・・。」
「ほう・・・。では、それを先に聞かせてくれまいか?」
「へえ、それでは、団子屋へ行った話から・・。・・・・ええーと、先日、あまり
お客がいない時を見計らって団子屋へ行き、お凛ちゃんにお茶と団子を注文しま
してね。・・・・食べたついでの間を利用して、アッシは世間話的にこう言った
んすよ・・・お凛ちゃん、最近綺麗になったけれども、誰か好いた人がいるの
かい?ってね」
「ふむふむ。なるほど。それから・・」
「すると、お凛ちゃんは、 “誰もいないので誰か良い人を紹介してくれたら、めち
ゃんこラッキー💗” と逆にこう言うわけなんですわ」
「ほう、それで?」
「それで、アッシは、いきなり先生の名前を出したら、何か勘繰られるかと思いま
してね、先ずは、アッシが仕事で出入りしている蝋燭問屋の手代、留吉はどう思
うかと聞いたんですわ」
「うむ。留吉か、・・・あれは、実直で優しく、しかも中々の様子の良い男だか
らな。・・・お凛は、その留吉を気に入っていることであろう」
「いやいや、それがそうでもないんで。お凛が言うには、まだ若すぎて男の魅力に
欠けると言うんですわ」
「ほう、若すぎる、とな・・」
「それで、今度は剣術の平戸師範はどうかとお凛に聞いたんですわ・・・・・・」
「平戸師範は、男の中の男。・・・質実剛健なお方。・・・年齢も三十代後半とく
れば、お凛の心は動いたであろう・・・」
「ところがそうでもないんで・・。お凛が言うには、平戸師範は、男臭さが強烈過
ぎて怖いと言うのですわ」
「わからんものだな、女の気持ちというのは・・・」
「それで、いよいよ何ですがね・・」
「ん。いよいよだな」
「へえ」
「では、幹太、その“いよいよ”を始めておくれ」
「へえ、町一番の賢者である西洋学の先生はどうかと聞きましたら・・・」
「うむ・・」
幹太は、先生をちらと覗き見ると、先生は腕組し目を瞑っていた。
「そ、そう聞いたら、最近お凛は、先生の夢を二回も続けて見たというのですわー」
「私の夢を?・・幹太、それは何の夢か聞いてきたか?」
「へえ、で、アッシはその夢の内容をしっかりとこの耳で聞き、キッチリと憶えて
めいりやした」
「では、早く教えておくれ」
「へえ、最初の夢は、先生が、お団子を食べるに来たのだけれども、金子を支払う
段になって財布を忘れたことに気づき、股間から魚を取り出してこれで支払いで
きぬかと言われ、取り出した魚は、なんと、キングサーモンのような大きなも
ので、生きが良く、大変美味しい夢であったと言っておりやしたねー」
「で、で、で、で、で、もうひとつの夢は・・」
「へえ、それが、次の日の夢も玄崔先生は、お団子を食べるに来たのだけれど、金
子を支払う段になってまたもや財布を忘れたみたいで。・・・今度は、股間から
お稲荷さんを取り出してこれで支払いはできぬかと言われ、“それがお稲荷さん
だと思ってよく見たら、なんと米俵が二俵だったのよ。”と、それも嬉しそうに
話してくれやしたわー。・・・・アッシの夢判断では、お凛ちゃんにとって先生
は、とっても男らしく、しかも裕福であり、・・・一緒になれば子宝にも恵ま
れ、・・・幸せな夫婦になれると思っているようで、へえ」
「そうかそうか、それは、何より吉報。でかしたぞ、幹太」
「へえ、恐れ入りやの鬼子母神・・・では、今度はアッシの夢の方をちょいと説明
して頂きたいんですが・・・」
「勿論、そのつもりだ。・・・よいか、耳を大きく広げて、よく聞けよ」
「へ~い、待ってましたよ、大先生」
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