第44話 迷惑系(後編)
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※長くなったので2話に分割して更新(43~44話)。同時更新です。
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男性配信者がリスポーンし、装備品や持ち物の扱いになっていない、ウィムハーピーの金羽根だけがその場に残された。こればかりは、アイテムポーチに入れていても避けられない現象だ。
配信者の持ち物として認定されるには、1階層であらかじめ魔力でリンクさせておかなければならない。
「うしっ、うっっっし!!」
興奮して鼻息を荒くしたたくぼうは、その『遺留品』を無造作に掴み上げると、
「はい楽勝~~~~~っっ! 3枚目ェ~~~っ!!」
自分の配信カメラに向かって誇らしげに宣言する。
ここに来るまで既に2枚、同じように攻撃を仕掛けてハーピーの金羽根を奪い取っていた。
・うわ~~w 最悪ww
・言いがかりでボコすの草
・殴りたいだけ定期
・さすがに引くんだけど…
・いいんだよこれで、チャラ男は4んでいい
・あースカッとした
たくぼうの蛮行を、しかし一部のリスナーは大いに喜ぶ。
・弱い方が悪いんだよ!
・結局実力の世界だからな、止められるもんなら止めて見ろって話
・女とイチャついて鍛えてないからこうなるんだろ
・たくぼうもほぼほぼ装備のおかげだけどなw
・それも含めて強さじゃん
・は? 中身も強いし
・たくぼう通報した。さすがに胸糞
・↑俺はお前を通報したぞ
・アンチは消えろ
どれだけアンチがいようと関係ない。
いやむしろ――
「通報? どうぞどうぞ! 炎上ゴチで~~っす!」
注目を浴び続けられるなら、敵対者はむしろ歓迎だ。
自分が悪者になるのも、『悪者を作る』のも、彼にとっては日常茶飯事。
例えば悪友に依頼して、配信外で不倫ネタをでっち上げるなんていうことだって、平気でやってのける。そういう努力を、彼は惜しまない。
「おいらは正義の味方だかんね! ぐだぐだ言ってるアンチも、いつか開示請求で身元掴んで、ぶん殴りに行きま~~~っす!」
・怖っw
・ヒェ~~~~っww
・たくぼうを怒らせんなよ? 消されるぞ?
◎どんどんやってくれ! 正義の鉄槌!!
・ギフチャいいぞ
熱心な信者で周りを固め、他人の迷惑を顧みず、ひたすら刺激的な配信をし続ける。もともと親のおかげで経済的に困っていないし、これでさらに収入も増えるのだから――
(世の中、チョロすぎっ! これだから配信は止められないんだよなぁ)
今日のイベントクエストも、真っ当な手段でクリアするつもりなどない。
ハーピーとの交渉?
クソ真面目に取り組む必要なんてない。プレイヤーキルで奪い取ればいいだけだ。
もっとも、1位の景品など、クエスト報酬に頼らなくてもたくぼうなら簡単に入手できるが、それはそれ。
せっかく配信者が大勢集まって、多くのリスナーから注目を浴びるイベントだ。このチャンスを利用しない手はない。
……しかし。
弱小配信者にばかりチマチマ絡んでいても
人気者で、
(…………っ! いたいた、そうだよアイツだよ!)
遠くに、とある配信者の背中を見つけて、たくぼうは舌なめずりをした。たくぼうとは対照的なほど小柄で、背の低い、最年少配信者の背中を――
「そういえばさ、おいら、あの人気配信者くんにイチャモン付けられたんだよね。今日、イベクエ始まる前にさぁ……! 調子乗りすぎてると思うんだよね、チヤホヤされて!」
こんなもの、すぐにバレる嘘だ。だがあの現場の一部始終を見ていたのは同じアイビスの梨々香だけ。
身内の証言はあてにならない、と喚けばしばらくは『疑惑』を維持できる。
それに、あとで糾弾されたとしても、謝罪動画でも出せばまた注目を集められる。
リスナーたちだって、
・たくぼう、また言いがかりっぽいなw
・勘違いしてイキってるんだろ
・世の中の厳しさを教えてやれ
・生意気なオスガキをボコボコにしてください
・真の強者の偉大さと恐怖を教え込んでやるといい!
本気で信じている者、暇つぶしになれば何でもいい者……。こういう連中を煽るだけ煽って、騒ぎを大きくする。それだけでいいのだから、楽なものだ。
(いい声で鳴けよ、クソガキィ……!)
仮に本当に戦闘巧者だったとしても構わない。殺されたって1階層でリスポーンするだけだ。ダンジョン内での死など、恐れるに足りない。恐怖なんて感じるわけがない。
イベントクエストの勝敗も気にしていないので、集めた金羽根を失っても大したダメージにはならない。
もしそうなった時でも、自分のことは棚に上げて『クエストの邪魔をする卑怯者だ!』などと吹いて回ればいい。こっちは好感度なんて気にしていない。イメージを傷つけられるのはあちらだけだ。
それにたくぼうを殺そうとするなら、唯一、剥き出しになっている頭部を狙うしかない。だが、プレイヤーキルは許可されていても、頭部への攻撃はどうしたってショッキングな映像になるので、仕掛けたほうの好感度は落ちてしまいがちだ。
もちろん、それを狙っての装備構成なのは言うまでもない。
「そんじゃ行きますかね、正義の鉄槌を振るいに! ヤラセ配信者の遠野蓮くんを、これからボッコボコにしまっっっす!!」
たくぼうは、小さな背中に向かって踏み出した。
……それが、自身の配信者人生を終わらせる、転落への第一歩だとは知らずに。
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