神官ミリアは神の言うことしか聞きません 8

 俺のミリアプロデュースの結果、教会を訪れる人の数は増えた。


 しかしクィーラ教の信徒が増えたかというと、そんなことはなかった。


「ほんとにミリアさん脚出してるじゃねえか……誰だよスリット入れたやつ、いい仕事しすぎだろ……」


「女神官の脚とかプレミア感半端ねえ……」


 教会を訪れた男たちはひそひそとささやき合う。


 ミリアの脚を見れると聞いて、バカな男たちが集ってきたというだけの話であった。 


 みな女神クィーラの彫像の前で祈りを捧げるふりをしながら、ミリアのスリットから伸びる脚を横目で凝視していた。


「あ、あの……羊さん方……そんなに見られては……もっと真剣にクィーラ様についての話をお聞き下さい……」

 ミリアは脚が出ている状態が恥ずかしいようで、いつものようにまくしたてる説法ができないでいる。


 スリットを必死に手で押さえているのは、その下になにもはいていないからだろう。

 パンツを脱がしたことによって、ミリアは内気な女の子っぽい仕草を自然に体得していた。


 以前のミリアの人間性を知ってる男どもは、今と昔のギャップに興奮するようで、完全にのぼせあがっていた。


「ミリアさんの説法いくらでも聞きます! 聞きますからどうかその後一緒に飲みに……!」

 男たちは次から次へとミリアに誘いをかける。


「私は神のしもべであって……殿方と遊び歩くなど、そんな不埒ふらちなまねは……」


 ミリアは必死に断ろうとしているが、やはり自分のスリットとノーパンが気になるようで、強い態度をとれずにいる。



 こんな時は俺の出番である。


 子供の姿に化けている俺は、小さな体を男たちとミリアの間に割り込ませた。


「おじさんたち、クィーラ教の神官に変なことすると――もげるよ」

 

 そうやって脅すと、男どもは『ひぃっ……』と股間を抑えて退散していった。


 やれやれ脅すだけの重労働だぜ、と俺は額の汗をぬぐう。


「子羊さん、助けてくれてありがとう!」

 ミリアはそんな俺の頭を優しく撫でる。

「それにしても私はだめだわ……せっかく人は来てくれるようになったのに信者の数は一向に増えてはくれない。何がだめなのかしら……」


 ミリアは疲れた表情で考え込む。

 彼女は悩み、苦しんでいた。


 うんうん、と俺はそんなミリアの姿に頷く。


 彼女は今、『信者を増やす』という目標に向かって試行錯誤している。


 つまりミリアは今、自分の『キャラクター』を育んでいるのだ。


 ルビィの時もそうだったが、人は己独自の試練をクリアしようともがき苦しむことで、キャラ性が立っていく。


「お姉さん、そんなに考え込まないで! まだ始まったばっかりなんだからいろいろ試してみようよ。僕も一緒に頑張るから!」


「あらあら……子羊さんはいつも私を励ましてくれるのね。ありがとう……私あなたがいなかったらきっと、くじけてしまっていたわ」


 ぎゅうっ……とお気に入りのぬいぐるみを抱きしめるように俺を抱くミリア。


 ああ……いい……。


 俺はミリアの胸に頬を押し付ける。

 おねショタプレイを成人の心で楽しめるのは『ミラー』で子供に化けられる俺の特権である。


「ねえ子羊さん、私次はどうするべきかしら……あなたに頼ってばかりで情けないけれど、私、人を集めるすべなど、なにも知らなくて」

 ミリアはしゅんとうつむく。

「神の御心だけを考えて生きたきたから、人の心がわからないのよ……」


「お姉さん、大丈夫だったら! アイディアなんてやってるうちに出てくるから! ――それでね、信者獲得のために次に僕たちがやるべきことは、訪問勧誘だと思うんだ」


「訪問?」


「うん。教会に人が来るのを待ってるんじゃなくてさ、こっちから街の人たちの家を回って、クィーラ教団に入りませんかって聞いて回ろうよ」


「訪問勧誘……実は、つじ説法みたいなことは以前やっていたのだけれど……私がクィーラ様の素晴らしさを説こうとすると、みんな腕と膝を直角にして全速力で逃げ出していってしまうの……」


「……うん、まあ、いきなり外で神への愛をまくしたてられたら怖いからね。そりゃ逃げるよ。でも今のお姉さんなら大丈夫だよ! 笑顔が素敵だし、もじもじしててかわいいし!」


 さあ! と俺はミリアの手を掴んだ。


「何事もやってみないと!」


**


「ごめんなさいねミリアちゃん、ちょっと今忙しいからまた今度来てね」


「あ、あの……少しだけでもお時間を……!」


 ミリアと俺の前でパタンッと閉じられてしまったドア。


 ミリアはしゅんっとうつむく。

「あらあら……これで40軒連続の失敗だわ。なかなかうまくいかないものね」


「くじけちゃだめだよお姉さん! 今日中に100軒回ろう!」

 俺はそんなミリアを励ます。


「そうね、そうよね。やるだけやる前から諦めるなんて間違ってる。次のお家にいきましょう、子羊さん!」


「うん!」


 次の家、また次の家と俺たちは街の家を回り、そして追い返される。

 

 ミリアが神官なので相手も怒鳴ってきたりはしないが、やはり迷惑そうな顔はされる。

 

 そりゃあ、いきなり家に神官がやってきて『うちの宗教に入って下さい』なんて言われたら、戸惑うしかない。


 地球で生きていた頃は、よくアパートに宗教の勧誘が来て迷惑していたが、まさか転生してから自分が勧誘する側になるとは思わなかった。


**


「ふう……」


 訪問勧誘を始めて3日目、街の道中で疲れたように息をはくミリア。


「お姉さん、ちょっと休もうよ」

 俺はミリアの手を引き、城壁のそばに生えている木の根に二人で座った。


 ミリアは座るなりうとうとし始める。


 体力はかなりあるはずなのだが、人に追い払われ続けたせいで、精神的にかなり来てるのだろう。


 これまでのミリアには『神の教えを守って生きてる私は絶対に正しい!』という自信があったので、人にどう思われようがあまり気にならなかったようだが――今はその自信が揺らいだ状態である。


 先日、聖人を介して神に説教されたから(その成人の正体は俺なのだが)。


 私は神に愛されていないのではないか――。

 不安だから人を求めたくなったのに、自分の回りには人がいない。

 

 今まで、ちゃんと人と心を通わせてこなかったから。


「大丈夫」

 俺はそっとミリアの手を握った。

「僕がついてるから」


「あらあら……子羊さんは本当に本当に優しい子」

 ミリアは唯一の味方である俺の肩に、そっと頭を乗せた。


 そして穏やかな寝息をたてる。

 完全に、俺を信頼してくれているらしい。


「順調だ……」

 俺は小声でつぶやいた。


 ここまではかなり計画通りにいっている。


 俺は眠ったミリアのスリットをそっと持ち上げ、ミリアの見えてはいけない部分を鑑賞する。


「…………」

 乙女の秘部……。

 激しく興奮してしまい、俺の心臓がバクンとはねた。


 もう少し、もう少しだけ我慢しろ俺。


 この子はどうせあと数日のうちに、俺のものになるのだから。


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