第14話 私の値段を決めるのならば

「そうは言われましても。結婚したからには、しきたり的に私は殿方に嫁入りしなければ」

「しきたりが何よ! あんたは、あたくしが1番大切にしている物なのよ! 私くしの元から離れるなんて、考えられないわ!」


 お嬢様の熱烈な愛にどう答えることも出来ない。返答に困り、視線をめぐらす。こっちを見つめていたらしい愛するダーリンと視線が会う。


 先程からチラチラと視界に入っている男。

 この話の元凶がずっと他人のフリして私たちの会話を聞いている。いつ話に参入してくるかと待っていたが、ニタニタと趣味悪げに笑うだけで一向に来ない。だからこちらから呼んでやる。


「愛するダーリン、そろそろ助けてくださーい」

「「愛しのダーリン?!!」」

「はーい。愛しのハニー。どうかしましたか??」

「「愛しのハニー?!」」


 軽やかに答えながら近ずいてくるヴァレル。

 この時点で、会場に鳴り響いていた音楽が消え、シンと静まり返る。

 しかし誰もそんなことは気にしていなかった。『人型の殺戮兵器』と呼ばれるほど恐れられている彼が、あの彼が、蕩けそうな笑顔でさらに『愛しのハニー』だなんて言うから。

 6割の人々は自分の耳を叩き、何が害悪な魔法がかかっていないかどうかを確認した。

 残りの4割はあまりの甘い顔から発せられた腰まで震えそうな美声に、めまいを起こしていた。

 

「お嬢様が私を手放してくれません。説得をお願いします」

「これが恋の試練と言うやつですね。わかりました。全力を尽くしましょう」



 心持ちか楽しそうに、お嬢様の前に立つヴァレル。対してお嬢様は、ヴァレルの衝撃発言から立ち直り、今度は噛み殺さんばかりに睨みつけれている。


 お嬢様のお顔が険悪でさえなければ美男美女なだけに、立ち並んでいるだけで華がある。状況が違えば『なんだかあの二人、お似合いじゃない?』と言われそうな組み合わせだ。


「泥棒猫がなんの用? 言っておきますけど、あたくしのモルは渡しませんことよ?」

「いいえ、すでに陛下に婚約を認めていただいているのでオレのモルです」

「そんなのは知らないわ。あたくしが駄目と言ったら駄目なの。あなた、ローズモンネ伯爵令嬢であるあたくしを敵に回すとどうなるか知っていらして? 二度とモルに近ずけないようにその足を切り落としますわよ?」

「へぇ。このオレに傷をつけれるもんならやってみてくださいよ」


 これはまさに、『私のために争わないで!』と言うシーンか? ……いや違うか。

 何となく蚊帳の外になっていた私は、そんな馬鹿なことを考えていたのであった。


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