第8話 国王様に謁見するのなら

「……」


 沈黙が痛い。

 扉の前に立っているカイゴル宰相なんて、白目を剥いている。

 しかしいち早く沈黙を破ったのは、カイゴル宰相だった。


「まてまてまて、結婚の認可を受け取りに来たのは、わかった! もしかして火急の用とはそれか!?」

「ええ。そうです。オレの人生を変える重大な事態です」

「確かにな! それはそうだ!! うん! でもな、お前、それは違うだろう!! こっちはな、国の危機かと思って、上から下への大騒ぎになってんだぞ?!」


 カイゴル宰相は唾を飛ばさんとする勢いで捲したてる。わかるよその気持ち。すごくよくわかる。

 

「……これから緊急通路は、国の命運を左右する場合に限り、使用するように。今後、婚前の許可を得るために使うなんてことは二度と無いように」

「離婚の予定がないので、もう使うことはないと思います」


 何となく、疲れたような諦めたような雰囲気で言う国王様にあっけらかんと答える愛するダーリン。


「そういうことじゃないだろぉ!!」


 カイゴル宰相、叫ぶ。

 さっきから彼には、同意でしかない。わかるよその気持ち!!

 心の中ではカイゴルさんが友達になり、心の中の私と『わかるぅ〜』と頷きあっている。それぐらい親近感が湧いてくる。


「それで、彼女との結婚を認めていただきたいのですが」

「……その使用人の格好をした女で相違ないか?」


 ここで初めて、国王様の目が私を映す。


「使用人の格好をしているのではなく、本物の使用人です」

「ちょっと待て、ヴァレル。使用人って、平民ってことか?!」

「運命の恋の前に、身分の差なんて関係ないのですよ、カイゴル」

「おま、恋とか運命とか、そういう性格じゃなかっただろ? どうしたお前、常々イカれてるよとは思っていたが、今度は本当に頭イっちまったのか?!」

「カイゴル、少し黙れ」

「はっ、申し訳ございません!」


 私の心の中でカイゴルさんは親友になった。

 『私もこの人頭、イっちゃってるって思ったー同意同意〜』とカイゴルさんと頷き合う。心の中で。


「それで、認めて頂けますか」

「認める以前に、急すぎる。そもそも当主エノクハント辺境伯の許可を得ているのか?」

「まさか、出会ってから1時間と経っていない電撃結婚ですよ! 父はおろか、兄たちだっては知るはずありません」

「堂々と言うことじゃないだろぉ!!」

「カイゴル」

「申し訳ございません!!」


 国王様も、愛するダーリンも会話の内容に反して、感情を交えずに淡々と話していく。

 ただ1人、カイゴルさんだけが喜怒哀楽豊かにツッコミを入れている。

 私? 私はひたすら心の中でカイゴルさんを応援している。


「……許可はできぬ。あまりにも早急な話であるし、何より女方の身分があまりにも低すぎる。釣り合わぬ、諦めよ」


 『ですよねー』としか言いようがない正論。

 美しい人からの刺激的な求婚に、期限付きの賃金が発生する契約結婚。私に釣り合わないほど幸運な出来事だと思っていたが、やっぱりそうか。

 盛り上がっていた気持ちに冷水をぶっかけられられ、冷静になる。


 そうだよ。私、元孤児の使用人だったよ。

 あーあー、残念。玉の輿逃しちゃったな。


 ……まって、私このまま結婚を承諾して貰えなければ、当初の予定通り愛するダーリンに殺されるんじゃない?






 


 



 

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