第6話 これが契約結婚だと知ったのなら
「はっ! まさか!」
鼻で笑われた。
それはもう盛大に。顔の整っている人からの愚か者を見るような視線。
物凄く恥ずかしい。勇気を出して聞いたのに。
「そもそも、あなたは勘違いをされています。オレはあなたとの結びつきではなく、結婚することで得られる契約と、その後な確立される関係性を目的としていまさす」
「契約と関係性?」
「ええ、結婚時に交わされる契約は神前の誓いということもあり、なんびとたりとも破ることができない絶対の誓約です。まずここであなたの口から俺の秘密が漏れぬように口封じの契約を結びます」
バカにしたような顔を隠そうともせず、人差し指を立てて説明する男。
「という事は、私は殺されないということですか!」
「そうですね。オレの配偶者である限りは」
意外とこの男、優しいのでは?
私の命を惜しんで、結婚までしてくれるとは。話が本当であれば半年間だけの結婚関係で、お金も貰えるらしい。何よりこんなに顔のいい男と結婚出来るなんて。
これは私にも運が向いてきたのでは?
いやいや、待て。私、さっきまでこと男に刺される所だったんだぞ。
あんまりの好条件に殺人未遂を忘れてしまいそうになる。危ない危ない。
「もうひとつの目的、関係性はこのオレ『優良物件のヴァレル・エノクハントは妻帯者』という事実です。これで残りの半年、女性からの煩わしい接触が減ります。独身貴族から妻しか目に入らぬ新婚貴族になるのです!」
両手を振り上げて叫ぶその様子に、この男がどれだけ女性からのコンタクトに辟易していたのかがわかる。
いやでも、騎士団副団長の肩書きに、大貴族様というトッピング。さらに極上の美形というスペシャルサービスがついて来くる。
彼を狙わない令嬢方がいるだろうか、いやいない。
「つまり、あなたの口封じと今後半年のオレの平穏を兼ね備えた契約と考えて頂ければよろしいかと。所謂、契約結婚というやつです」
「ああ、最近流行りの」
「ええ。結婚は資産運用として最適な関係ですからね。貧乏令嬢が借金のカタに愛のない結婚なんて、よく聞く話です」
没落しかけている貴族の令嬢は、唯一残された結婚によるお家復興の希望を胸に必死の努力をするという。
もしくは令嬢の両親がその希望にかけて、とんでもない年の差の男の元に娘を嫁に出そうと企んだりする。
「先程から疑問だったんですが、なぜ半年間なんですか?」
「それは、あと半年でオレが爆発するからです」
「……ン?」
えーと。爆発?
「ええと。爆発って、圧力の急激な発生もしくは解放の結果、熱・光・音および破壊作用を伴う、あの?」
「詳しいですね。その爆発で間違いないです」
「もしかして、『オレが爆発する』というのは比喩ではなく物理的なあれですか?」
「はい。移植した悪魔の心臓部分から無限に生成される魔力を抑えきれなくなったオレの体が、物理的にドカンと逝く予定です。対策をしなければ、王国一帯が吹き飛ぶ事になるでしょう」
いや、待って?
体が物理的に爆発って初めて聞いたんですけど。そもそも人間って爆発するっけ?
しかも王国が更地になる規模って……これ冗談じゃないんだろうなぁ。
この人、冗談言わないタイプらしいし。真面目に信じられない話だけれど、嘘偽りない真実なんだろうな。
王国、なんもしなければ半年後に地図から消えるらしいよ。
はぁ、切実に聞かなかったことにしたい。
「とりあえず、半年後にあなたが爆発することにより、結婚関係が解消されるという事は、わかりました」
「ご理解頂けたようでなによりです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます