第2話 A&Wで夕食を
どうやって帰って来たかは覚えていない。
いつの間にか武器ロッカーに装備品をしまい、シャワーを浴びて、着替えた彼女は放課後の食堂でテーブルに伸びていた。
部活終わりの生徒たちが何組か談笑している、そのはしゃぐ声も今の彼女には煩わしかった。
ふと、冷たい感触が首筋に。
「ひゃっ!」
飛び起きると同じく一年でマネージャーの
「聞いたぞー。大活躍だったらしいじゃないの」
「うっさいなぁ」
フルーツ・オ・レを奪い取ってストローを刺す。紙パックがぺしゃんこになるまで一気に吸った。
幼馴染の彼女とは中学時代は背中を預け合った仲である。二年の県大会で負った傷が原因でアタッカーを引退してしまったが、わざわざ香澄と同じこの高校を受験し、その分析能力を生かすためにマネージャーとして入部していた。
「ふふふー。富士宮二中の
「その名前、なんとかならんものかね。私は一回も名乗ったことないのに」
「特に否定しないから気に入ってるんだと思ってた」
コロコロと笑う。確かに中学時代は気に入っていた時期があることは否定しない。
「あなたにそんなオフェンス能力あるなんて知らなかった」
「……できれば二度とゴメンだわ」
自分の大嫌いなスタイルを評価される事で、今の自分を否定されているような思いに包まれる。こういう女々しい自分が嫌いだった。
「私はね……」
そっと後ろからハグして、
「香澄が『無事に』帰ってきてくれただけで本当によかった」
「美由紀……」
「あ、いけない! 京極先輩が生徒会室でお待ちになってるわ」
「なぜそれを早く言わぬ!」
空の紙パックを美由紀に押し付け飛び出していった。
「……どういうことでしょうか?」
生徒会長でもある櫻子は書類に目を通しながら、
「どういうこと、言われてもなぁ。そのまんまや。『前衛に転向するか撮影係続けるか、決めよし』ゆーのんは、
京都出身の彼女の物の言い方が苦手だった。本人が意図しているのかは別にして、どうも小馬鹿にされている気がしてならない。
「前衛希望者は多数おりますし、どうして後衛希望の自分が『前衛にまわるか、アタックに関らないかを選べ』と言われなければならないのか理由をお伺いしたいのです」
櫻子は書類から顔を上げ、
「何かを言うてアンタは納得するんか? それとも、今のウチの戦力やら作戦やらをまさか自分で分析でけてへんのんか? 」
「それは……」
「アンタの『奇襲』やったかいな。あんな子供だましが通用するのんは全中レベルがせいぜいやで。しかも、それで優勝できてへんやないの。相手の隙につけこんで、自分勝手に動き回りたいだけやろ? それでアタックミッション達成率98%言われてもなぁ。ウチらを囮に使いたい言われても、そんなしょーもない作戦に命預けなあかん身にもなってほしいもんやわ。どうや、納得……できひんやろ?」
おそらくは物凄い顔で櫻子をにらんでいたのだろう。冷静に言われてしまうと図星なのである。
「……しゃぁないな、分かったわ」
「え?」
香澄の顔が少し和らぐ。
「アンタはウチではやっていけへん。辞めてしまいなはれ」
突然の退部勧告。
「さぁ、話はおしまいや。私物の装備品は学校の武器ロッカーにでも移動させときよし」
と、黙ってうつむく香澄に向けてキーを投げてよこす。こうなることを予想していたのだろう。
足元に落ちたキーを拾い上げると、急に悔しくなって挨拶も適当に生徒会室から飛び出した。
30分後、香澄と美由紀の富士宮二中コンビは下里のハンバーガー屋で爆食い中であった。いや、厳密にいうなら香澄の爆食いに美由紀が付き合っている状態。目下、山盛りのハンバーガーを挟んで本日の文句を絶賛放出中である。彼女たち以外には5人くらいの学生チームがいるだけなので多少エキサイトしても問題はないようだった。
「ホントに腹が立って仕方がないわ!」
「アンタの腹は『減ってる』でしょ」
「あったり前よ! あんだけやって労いもなしとか、ありえんわ!」
「労ってほしかった?」
「……そういう意味じゃ……」
「おつかれさまでした。貴女の活躍で他のメンバーに心理的な傷を残さずに済みました。治癒師の女子が感謝してたわよ」
「そういや、あの後、誰も話しかけてこなかったな」
「怒鳴り散らしたらしいじゃないの」
「あー、キャラではなかったか」
「もっと前に出てもいいのに」
「また周りが見えなくなってしくじるのはヤなんだよね」
「あれは私の不注意だったって言ってるじゃないの」
「あー、やめやめ。この話。……さて、明日からどうしようかな。部活はないし」
「ホントに辞めるの?」
「取り付く島がなかったしなー。今、あの部長の顔見たら、また頭に血が上って変なこと言ってしまいそうだし」
「今日の今日だからなー。ちょっと冷却期間をおいても良いかもね」
幾つ目なのか、もう数えるのをあきらめたモッツァバーガーに手を伸ばした時、
「なんだい、可愛い女子高生が暗い顔してサ」
テンション高く声をかけられた。
これがキャッさんとの出会いだった。
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