第15話 衰え 視点ディッツ
儂と
案内用ウィル・オー・ウィスプが2人を案内してくれている。
「なぁ、ディッツの旦那。1つ訊いていいか?」
「なんだ?ラアナ」
儂は半歩程、ラアナから離れてから答える。
「なぁ、旦那。いつからだ?」
やはりそうか。
残念な気持ちと誇らしい気持ちが、ないまぜになる。
「何の話だ?」
「裏切りの話だよ。旦那」
儂は足を止めラアナの方に油断なく振り向く。
「ディッツの旦那。あんた仲間を魔族に売ったろ?」
「ここは魔族の遺跡じゃねえ、全盛期には遠いかもしれねぇが、稼働している研究所だ!」
「あぁ、そうだな。」
儂は1つの問いと1つの確認に、一言で答えた。
☆☆☆
切っ掛けは、面白くもないゴブリン退治での、ちょっとした違和感だった。
愛用の戦斧が僅かに重く感じられて、腕に傷を負った。
当時の仲間は「ゴブリンとはいえ、油断し過ぎですよ」と癒してくれたが、その後、ちょっとした怪我や判断ミスが増え始めた。
仲間には気づかれない様に誤魔化していたが、儂には齢による衰えが始まっていた。
30年以上冒険者を続けてベテランとは呼ばれていたが、基本冒険者はその日暮らしの連続だ。
いつか終わりがくると分かっていたはずだが、冒険者を辞めても食うあてがない。
何か大きな仕事をして、大金と名声を掴んでから一線を退く。
金と名声があれば、[鋼鉄の鍋]を抜けて引退しても、おのぼり冒険者でも指導しながら暮らしてゆける。
冒険者の店には有力そうな新人冒険者を育てる機能もあり、高名な引退冒険者を指導役にしている事があるからだ。
だが、儂の判断は既に遅かった。
大きな仕事には全盛期に挑むべきだったのだ。
大金と名声に釣られたグリフォン退治に失敗し、仲間の過半を失った上に違約金やら生活費やらの払いで借金を重ねた。
そして、どうにもならなくなったタイミングで声をかけられた。
☆☆☆
「なんでだ?旦那」
「あんたは、半人前だったアタイを拾って育ててくれたじゃないか!」
ラアナが吠える。
「半人前?思い上がりだラアナ。スラムで拾った時のお前は、ただの糞ガキだった」
そうだ、聖都のスラムの糞ガキが儂の企みを察するぐらいの冒険者になった。
なるほど齢を取るはずだ。
「仕方がない、お前は見逃してやる。失せろ糞ガキ」
「スカしてんじゃねえぞ!糞ドワーフ!」
ラアナが両短剣に手をかける。
本人は嫌っているが、冒険者仲間から[ダンシングダガー]と呼ばれるラアナだ。
今の儂では敵わないだろう。
だが、ここでラアナに討たれるなら、それはそれで納得出来る気もする。
儂は少し重い、愛用の戦斧を構えた。
しかし……
「仲間割れですか?」
後から女の声がかかる。
思わず振り向くとウィル・オー・ウィスプに照らされた通路に白衣を着た魔族の女が、いつの間にか佇んでいた。
「今、取り込み中だ。後にしてくれポンコツ」
ラアナが魔族の女に言い放つ。
「お気づきでしたか。」
「スチールゴーレムの時とポンコツの時で落差があり過ぎる。人を騙すには向いてないぜ、魔族の姉ちゃん」
2対1の不利を感じてか、ラアナはゆっくりと間を測る。
「今更、何の用だ?報酬は1人頭金貨30枚。冒険者の店に振り込みのはずだ」
儂は口を挟む。
ラアナが逃げてくれれば良し、戦う気なら
「それが
確かにそうだ。
出発前にまとめたパーティの借金は金貨120枚。
それぞれ金貨でチカカ60枚、ルース15枚、ラアナ16枚、そして儂が29枚。
このままでは借金は一時的になくなるが、また生活の為に金を借りねばならなくなる。
しかも今度は仲間を全て失ってだ。
「話が違う。フォニが死んだのはそちらの都合だろう?もう30枚支払ってもらう」
「それは難しいですね。引き渡し完了は受付到着時の約束ですから」
確かに契約書はそうなっていた。
「ただそこで御提案なのですが、ラアナさんも売り渡していただければ、と思いまして。裏切りを知られたからにはディッツさんには用無しでしょう?」
「旦那、ポンコツ、アタイは商品じゃねぇ」
ラアナが左手だけで短剣を抜く。
「魔族の
そして首に刃を当てた。
「待て、契約通りだ。約束通りラアナと儂は見逃してもらう」
当初から儂自身と最後の仲間であるラアナは見逃してもらう予定だった。
最初は、ボルドーに魔族の希望に合う借金持ちの冒険者を斡旋してもらい、儂は金を奴は債権処理実績を得る予定でスタートした。
こんな島まで来る予定も無く済むはずだった。
だが、奴も儂も予定通りに行かず、儂は奴も売り払う事になった。
最近は、何もかもうまくいかない。
「そうですか、ではまずラアナさんに、ご退場願います」
[無作為転移](使3残95)
ポンコツが視線を向けると、ラアナが黒い渦に呑まれ消えた。
「ラアナは……」
「ラアナさんの潜在意識の、どこかに時空を越えて飛びましたよ。統計的には大抵は故郷近くに飛ぶそうです」
白衣の魔族はなんでもない様に告げた。
「ディッツさんは外まで送ります。天候も悪くないので、数日後には迎えが来るでしょう。」
眼の前が歪んだ。
気がつくと儂は誰も居ないテントの前で、ただただ座っていた。
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