第13話 エラー 視点ルース&ポンコツ

「受付フロア」

「外へ」

皆で音声入力をした時、司祭フォニだけが外に出るのを望んだ様だ。


その為か転移の小部屋には自分一人しかいなかった。

何らかの誤作動が生じたのかも知れない。


このフロアが何階なのか?

何のフロアにあたるか?

壁の表示を見たいが、灯りがない。

唯一の光源はタッチパネルの魔力が通っていると言う光る点の表示のみ。

何度かタッチパネルの操作を試みたが反応はなし。

魔力が残っていれば魔法で明かりを灯せるのだが、魔力も尽きている。


仕方ない。

私は考えを切り替え、大きく深呼吸をした。

魔力で調整された微かにカビ臭い空気が肺腑に入ってくる。

魔力も無く一人でフロアに歩み出るのは悪手だ。


こういう時は、まず荷物を確認し心を鎮め状況を整理する。

そして出来るなら魔力を回復する様に睡眠を取る。

魔術師ギルドで取った野外演習の講義の遭難時の心得を思い出していた。


暗闇で荷物を確認すると役に立ちそうな物は、携帯用保存食2つ、水袋と水、護身用の短剣、火打ち石と火口箱ぐらいだ。

遺跡探索と言う事でベースキャンプを起点に動くつもりだったので、細々こまごました装備は持っていない。

これが討伐依頼などの野外探索だったら別だったのだが……。


せめて灯りがあれば、このフロアの安全性を推察出来るかも知れない。

警備を刺激する可能性もあるが、何か燃やせる物はないか?

その時、「ルース、その仕舞い込んだ資料は焚き付けにでもすんだな」と言う盗賊ラアナの言葉を思い出した。


懐からエルフの遺跡に関する書付けを取り出す。

そして1枚を、くしゃくしゃにもみ、残りを捻って棒状にする。

何か油があれば良いのだが無いものは仕方がない。

紙が燃え尽きるまでの短い間に僅かでも情報を得て、次の手を考える。

私は火口箱に手を伸ばした。


☆☆☆


「B3の搬入受付にて発火を確認」


「スチールゴーレムの自動転送までカウント30、29、28……」


警備画像でA5[ミノタウロス]がフォニを殺害してしまうのを確認していると、システムからの警告が入った。


フォニは[変異混成の珠]で繁殖に使うつもりだったので残念だ。

計画を見直さなくてはならない。


「スチールゴーレムの装備を消火用からスタン用に変更。拘束用のオレンジスライムを追加で転送。」

私は指示を出す。


隣では博士が他のフロアの警備画面を眺めながら私が淹れた珈琲を飲みボンヤリしている。

いや、正確には頭の中はフル回転だろうから、[ボンヤリしている様に見える]なのだが。


魔術師ルースは拘束後、頭は保管機へ移してライセンス生産のマンティコアの素体に、それ以外はペーストにして魔獣素体の餌にする予定でいる。


「スチールゴーレム転送終了。オレンジスライム転送まで残り15、14、……」

私はシステムの合成音声を聞きながら、他のフロアへと画面を切り替えた。


☆☆☆


揉んだ紙に火が着き、筒状の紙に移す。


[B3搬入受付]

[素体受付口]

[職員出入り口]

[確認徹底・安全第一]


どうやらここは、魔獣の材料になる素体の搬入口らしい。

職員用の出入り口もあるので、ロック解除さえすれば出られるだろう。 

部屋の大きさからして、あまり大型の素体は現れないだろうが、警戒はしなければならない。


しかし受付は受付でも素体受付とは。

ただ他のメンバーが居ないので、たぶんコードの発行間違いだろう。

魔術師ギルドの金融部門ではシステムがヒューマンエラーを弾くとか友人が言ってたが、それでもエラーを0にするのは難しいらしい。

魔族も似た様な物だろう。


紙が燃え尽き、リスクを取って睡眠を摂る準備をしていると、暗かった地面が転移陣の形に光った。

まずい。

念の為護身用の短剣を構えるが、出てくるのがゴブリンぐらいならともかく、魔獣合成用の猛獣や警備用のスケルトンウォリアーなら詰む。

だが、光が一段と輝いた後、出てきたのはスチールゴーレムだった。

私は安堵の溜息をつく。


「助かりましたよ。ポンコツ。間違って素体受付に飛ばされてました。」

間違えに気付いた魔族が寄越したのだろう。

私は短剣を鞘に納めスチールゴーレムに近付いた。


「申し訳ございません。」

スチールゴーレムが謝罪しながら近づいてくる。


バチリ

そんな音がして、腹部に衝撃が走り体が動かなくなった。

声も出ず、受け身も取れず倒れる。


「申し訳ございません。貴方は臨時職員ではなく素体になります。」


少しの間、意識を失っていたようだ。

気がつくと首から下は、いつの間にか現れたオレンジスライムに包まれていた。


「ぐ、な゙、何故?素体?そんな馬鹿な!」

衝撃から僅かばかり回復し、声を出せる様にはなったが硬化したスライムにより動けない。


「硬化したオレンジスライムはミノタウロスでも振りほどけません。処置室へお連れします。」

転移陣がひかり始めた。


「た、助けてくれ!私は、私はシュリーを迎えに行かなくてはならないんだ!私は……」

首に針の様な物を刺され、そこから冷たい液体が流し込まれると、あたりが暗くなった。

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