第10話 休憩室 視点ボルドー

「交易の神よ、我が傷を、全て癒やし給え」(使2残2)

自らの傷を癒やし、一息つく。

やはり護身術程度の腕では、戦闘用のスケルトンウォリアーには刃が立たない。

商人を辞めて冒険者になるのはとても無理だと改めて思う。


「至高神よ、この者らの、火傷を、癒やし給え」(使2残5)

隣では司祭フォニがドワーフのディッツ、魔術師ルースに治癒魔法をかけている。

至高神の神聖魔法により、傷が癒え苦痛に歪んでいた2人の表情が和らぐ。


「儂としたことが油断した。すまねえ。」

ディッツが胸甲と共に駄目になった服の代わりに上半身に布を巻き始めた。

戦士チカカは、それを手伝う。

手慣れた様子だ。


「ポンコツ!ここには、あのキメラ以外に、どんな化物を飼ってやがる?」

盗賊ラアナがスチールゴーレムに問う。


このゴーレムが何らかの誘導を行っている可能性もあるが、単に見学者案内用の機能しか無い可能性もある。

ディッツの言う最悪、このゴーレムを捕縛し金に変える選択肢も考えたら、壊すには早い。


「現在はタイプ2a及びA5が飼育され、何らかの要因で脱走しています。A5については安全の為、射出済みですが後日回収予定です。」


「何だか知らねぇが、一匹は外かよ。」

ラアナが悪態をつく。

外のキャンプは大丈夫だろうか?


「取り敢えず食事にしましょう。ただ火気厳禁で。使うと警備のスケルトンウォリアーが来てしまいます。」

ルースが壁に貼られた魔族語の警句を読み、教えてくれる。

私達は干し肉と堅パンを噛り始めた。


「温かい食事は取れないか……」

フォニが呟く。


「食事は無理です。でも飲み物なら小銭があればお楽しみいただけます」

スチールゴーレムが答えると近くの鉄の箱が光る。


「いらっしゃいませ。硬貨を投入してください。」


「なんだこりゃ?鉄の箱が喋ったぜ?」

ラアナが奇妙な目で壁際の鉄の箱を見た。


「それは魔道具の[給茶機]ですね。」

ルースが小銅貨2枚を取り出しながら説明してくれる。


どうやらカップを置き、硬貨を入れるか職員コードを入力すると、茶が飲めるらしい。


「こんな格安で温かいお茶が飲める魔族が羨ましいですよ。」

ルースが近くにあった透明なカップを箱の中に入れ硬貨を投入すると、鉄の箱の表面が光る。


「茶と香茶か選べるのか」

覗いていたフォニがルースに説明を受けている。

ルースがカップに入った香茶を箱から取り出すと良い香りが拡がった。

商会で茶を飲む機会もあったが、1杯銀貨1枚はする。

ルース、チカカとフォニ、そして私は硬貨を投入し茶を楽しんだ。


ディッツは「茶は好かん。エルフの飲み物だ」と呟き魔道具に触れもせず、ラアナは茶よりも、中の硬貨を取り出せないかと思案していた。


「無理に触ると警備が来ます。小銭では割に合いませんよ」

と、言われなければ鍵開けを試しそうな勢いだ。


私達は一刻余りを休憩室で過ごした。


☆☆☆


「そろそろ出発するぞ」

治療と食事を終えた我々にドワーフのディッツが声をかける。


「でも、どうするんだよ旦那。このまま見学記念コインでも貰って帰るつもりか?」

ラアナが皆を代表してリーダーに絡む。


「ドワーフ並びに人間の見学者の皆さん。ムッカ研究所から、ご提案がございます。」

スチールゴーレムが目をいや、ガラス玉を光らせながら突然喋った。


「何だ?ポンコツ。飯なら、もう食ったぜ」

色々言うが、ラアナが1番ポンコツの相手をしている。

もしかして気に入っているのだろうか?


「皆さんを当研究所の臨時職員として雇用したいのです。」


「はぁ?ポンコツ、冗談が過ぎるぜ。お断りだ。掃除ならスライムにやらせとけ。」

ラアナは、にべもなく断ろうとしている。


「待ってくださいラアナ。スチールゴーレム、どういう意味ですか?」

ルースが改めて問いかける。


「呼び名はポンコツで結構です。」

スチールゴーレムが何故か律儀に告げた後、説明を始めた。


「現在、何らかの事故によりタイプ2aが管理下を離れています……」


ポンコツの提案は研究所内の実験スペースにキメラを誘導するので、退治して欲しいと言うものだった。

どうやら、研究所の警備では魔獣は手に余るらしい。


「反対だ」

フォニはそれだけ呟く。


「つまり、僕達が魔獣キメラと戦うのか?」

チカカは不服そうな顔をする。

確かに戦いで、一番危険なのはチカカだ。


「ファイトマネーは幾らだ?ポンコツ?」


「臨時職員と言う事なら職員コードを人数分、発行してもらえますか?」

ラアナとルースが尋ねた。


「仮臨時職員コードは直ぐに発行されます。臨時職員コードはその後になります。報酬は皆さん全体で金貨24枚。ですから一人頭4枚ではどうでしょうか?」


「どうせ断っても、儂らに戦わせるつもりだろう?なら金貨30枚だ。ただ前払いでハルピアの冒険者の店、[森の若木亭]の[鋼鉄の鍋]口座に手数料そちら持ちで入金してくれ。」

ドワーフがリーダーとして決断をする。


「振り込みを確認どうするんだ?リーダー」

チカカが当然の疑問を口にした。


「付け馬の旦那。[交易の神]の神聖魔法に交易に関する契約が守られたか確認するのがあるだろう?使えるかい?」

ラアナが、こちらに話を振ってくる。


「使えるが、今の残り神力は2。それを使うと1しか残らない。」


「それでも口座に金がある方がボルドーお前さんには良いはずだ。」

ドワーフの言う通り、債権の差し押さえ

にはこんな島で現金で持たれてるよりずっと良い。


「わかった。では契約成立、入金宣言後に確認しよう」


その後前金が払われ、我々は研究所の臨時雇い(仮)になった。


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