第8話 出来損ない 視点ボルドー

 「おい、ポンコツ。この研究所は何の研究をしているんだ?」

盗賊ラアナがゴーレムに話かける。


「ムッカ研究所では、主に生命工学の研究を行っています。」

スチールゴーレムは機械的に答える。


「生命……何だって?おい、ルース。どういう意味だ?」


「魔獣や一部ゴーレムの開発などですよ。魔王戦争時、魔族は人口の少なさ、つまり兵力差を補う為に様々な魔獣を開発、投入しました。」

魔術師ルースが博学な所を見せる。


「んだよ。化物の巣かよ。」

そういう我々の前を青いスライムが音も無く滑って横切ってゆく。


「あれは難燃スライムです。通常捕食植物の一種であるスライムはグリーンなのですが、難燃物質を配合したことにより、色が変化しています。」

スチールゴーレムが見学者たる我々に解説して寄越す。


「僕たちは何処に向かってるんだい?」

今度は戦士チカカが尋ねた。


「『魔獣展示室』です。実際作成された魔獣の画像データや標本、一部試作魔獣の実物がご覧いただけます。勿論、危険はありません。」


「ディッツ殿、これからどうされますか?」

司祭フォニがリーダーのドワーフに対応を尋ねる。

このまま研究所を見学して帰る訳にはいかない。


「案内人、トイレはあるか?小便がしたい。」

突然、ディッツがゴーレムに尋ねる。


「マジかよ旦那。歳は取りたくねぇな」

ラアナが呆れた声を出すが、顔は笑っていない。


「御案内いたします。」


「いや、1人で行ける。急いでる。見取り図をくれ。」


「御案内いたします。皆様、御協力下さい。」

ドワーフが首を振り、肩を竦める。


「作戦失敗。先ずは旦那と連れションだな。」

ラアナが下品に笑いながら言った。




トイレ後

スチールゴーレムから離れるタイミングを図りながら歩いていると、前を歩いていたスチールゴーレムが、急に甲高い音を出し、埋め込まれたガラス玉が赤く点滅する。


「見学者の皆様にお知らせがございます。緊急事態が発生しました。緊急事態が発生しました。」

十字路でゴーレムが停止する。


「糞!どうなってやがるんだ!」

リーダーのドワーフ、ディッツが悪態を付く。


「合成魔獣タイプ2aが開放されています。研究所の警戒レベルが引き上げられました。」

歩いてきた後方の壁が閉じる。


「右からアンデット、スケルトン2体が来るよ。」

チカカが抜剣しながら指摘する。


「違う!ありゃスケルトンウォリアーだ。戦闘用ゴーレムだぜ!糞が!」

ラアナが訂正した。


「左からスライム。色はレッドとブルー」

フォニも報告してくる。


「正面もだ。だが何だありゃ?」

ディッツが驚いている。

ライオンとヤギが上下に双頭になっており、上半身はライオン、下半身はヤギ、そして尻尾は蛇になっている。


「あれは先行量産型キメラですよ。西方軍団開発のマンティコアに対抗して造られたはずです。」

ルースが興奮気味に、まくしたてる。


「んな事は、どうでもいい!ルース!左を近づけずに燃やせ!」


「チカカとボルドーは右!」


「アタイと旦那は前を抑える。フォニは遊撃と治療!左が開き次第全力で移動だ!」

ラアナが戦闘指揮を執る。


戦いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る