第7話 身内
「何故彼の話を聞きたいのです?」
アドガルム国とティがどのような関係なのか、彼は一体何を聞きたいのか、ミューズは気が気でなかった。
「落ち着きなさい、ミューズ。まずはこちらへ」
ディエスの促しで二人は側による。
「紹介が遅れましたが、娘のレナンとミューズです。ティさんとは仲良くさせて頂いたものですから、心配なのでしょう」
「それは嬉しいものです。僕達にとってもティは大事な人ですから」
青髪の男性が穏やかに返す。
「申し遅れましたが僕はリオン、そしてこちらが兄のエリック。共にアドガルムから来ました。国境を越え、こちらに来た理由というのは、ティという熊を追っての事なのです」
その言葉に二人は身を固くする。
「彼を大事な人と言いますが、あなた方はティとどういった関係なのですか?」
レナンが恐る恐る尋ねると、エリックを呼ばれた金髪の男性が口を開く。
「ティは我らの身内だ。ずっと探していたのだがこちらでお世話になっていたと聞いてな、お礼とそして仔細を聞きに来たのだが――」
射る様な視線がレナンとミューズに向けられるが、敵意は感じられなかった。
ただ単に目つきが悪いのかもしれない。
「仔細と言いましても、彼は特に自分の事を詳しくは話してくれませんでした。一緒に数日遊んだりしたくらいで」
「そうか……」
ただそれだけなのだが、それを聞いただけでもエリックは安心したようでホッとため息をついている。
「それはつまり、あなた方が優しく接してくれていたという事ですね。ありがとうございます」
リオンが頭を下げると何故かシグルドとディエスが動揺していた。
それをキョトンとした目でレナンとミューズは見つめると、リリュシーヌが説明してくれる。
「あの方々はアドガルムの偉い方だそうよ、お祖父様よりも身分が高いらしいの」
隣国とはいえ辺境伯であるシグルドより偉いとは、侯爵以上の身分にあたるだろうか。
(そんな凄い方の身内だなんて、ティって一体何者かしら)
この二人を見るにすらりとした美形だろうか。
二人とも整った顔立ちとすらっとした体型をしている、恐らく相当モテるだろう。
「話を聞けて良かった。後で改めてお礼をしに来させてほしい」
そう言うとエリックとリオンは立ち上がる。
「シグルド公に領地内を探索する許可も得られたし、有意義な話も聞けた。これから本格的にティを探しに行く。それと呪いをかけたという妖精も探さないとな」
「それならば私達も連れて行ってください!」
ミューズは食い気味にエリックに迫り、彼の側近に止められる。
だが引いたりはしない。
「妹が言う通り、わたくし達も連れて行ってください。先程わたくし達は妖精に会ったのです、少しはお役に立てるかもしれませんので」
「妖精に会った?」
その言葉にエリックは反応する。
「それはどんな姿でどんな力を有していた? 何か手がかりになるような事は言っていたか?」
「姿は、本に出て来るような姿でした。強力な風を起こすことが出来、また変身能力も持っています。護衛の騎士達が来た際に蛇の姿になって逃げて行きました」
詰め寄られ、半ば泣きそうになりながらレナンは答えた。
リオンは考える素振りをし、レナンとミューズを見る。
「情報は有難いですが、お二方はここで待っていた方がいい。あの妖精に会って怪我もなく済んだのは良かったですが、次も同じとは限らない。危険ですからここは僕達に任せていてください」
当然だが断られてしまう。
「でもあの妖精は侍女のラフィアの姿を翳めとろうとし、わたくし達に攻撃をしてきたのです。このままでは気もすみません」
「何だと?!」
怪我をさせられそうになったと聞いて、真っ先に反応したのはシグルドだ。
「妖精め、俺の孫達に手を出すとは許せん! おい、すぐに探しに行くぞ!」
シグルドの怒号に壁際に居た騎士達がワタワタと準備に向かう。
それを見てエリック達も立ち上がり、部屋を出ていく。
「待ってください!」
尚も追いすがろうとするミューズ達をエリックは手で制した。
「君たちはティに優しくしてくれた。そんな君らが危険な目に遭い、万が一にでも怪我をしたらティが悲しむ。だからここで待っていてくれ。解決したら必ず報告に来るから」
そうしてエリックの目がレナンに注がれる。
「侍女想いなのはいいが、まずは身を守れるようになった方がいい。そのままでは危なっかしい」
なんだか色々見透かされたようで、レナンは顔を赤くする。
「あ、あなたにはそんな事関係ないでしょ」
「色々な意味で無防備なようだ」
エリックが少しだけ口角を上げた。
何だか楽しそうに見えるのはレナンの気のせいだろうか。
「君がティのお気に入りではない事を祈るよ」
「?」
よくはわからないがそう言った後エリック達は行ってしまった。
結局連れて行ってもらえず、二人は部屋で待機しているようにと命じられる。
だがそんな命令を大人しく聞くつもりもない二人は策を案じていた。
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