第8話 再会
二人は部屋を抜け出し、独自に妖精を探しに行く事を決めていた。
侍女達には二人にして欲しいと話して部屋の外に出てもらい、動きやすい服装へと着替える。
「多分あの妖精は姿を変えて逃げようと考えているわ」
あの妖精はラフィアの姿を盗ろうと手を伸ばしていた。。
姿を変えるには元の人間に何かする必要があるのだろう。
(ティが熊になったのなら命を奪うというわけでは無さそうだけど)
ただの仮説であって、確証はない。
自分達を狙うかはわからないけれど、アドガルム国の兵士よりは狙いやすいと思って来てくれるかもしれない。
(あの人達がみすみす逃がすとは思えない)
エリックもリオンも隙のない人物に見えたし、シグルドも本気になって妖精を倒そうとしている。
このままいけば妖精が捕まる可能性は限りなく高いだろう。
そんな中でミューズとレナンが単独で動くのは危険しかないのだが、黙ってはいられなかった。
命を奪いかねない攻撃をされた事、そしてあんな凶悪な妖精を野放しにする事。
そして何よりあの優しいティに対してあのような呪いをかけた張本人だという事に憤りが止まらなかった。
◇◇◇
ドアから出てしまってはすぐに止められてしまうからと窓から二人で抜け出す。
ミューズの魔法があれば怪我もなく地面に降り立てるが、それでも高いところは怖いのものだ。
先程風で巻き上げられたことを思い出し、レナンの背筋がぞわっとする。
「大丈夫よ、お姉様」
ミューズが優しく手を包みこみ、安心させるように声をかけてからゆっくりと魔法を唱える。
二人の体が光の膜に包まれ、そのまま空を渡って森の方へと向かった。
屋敷の周りにも守備の為の兵士が配置されているから、屋敷を抜け出すには空路の方が確実だと思ったからだ。
「絶対に離さないでね」
空を浮く感覚に慣れないレナンはしっかりとミューズの手を握りしめる。
「大丈夫、落としませんから」
しっかりと繋いだまま、ミューズはティと会った森の近くまで来る。
まだ見失ってからそれ程時間はかかっていないし、恐らく隠れるに一番適しているのはこの森だろう。
国境沿いにあるこの森は広大であり、ティもこの場所で呪いを掛けられたという。
ならば妖精はここに戻っている可能性がある。
二人は慎重に進むが、不思議な事に誰にも出会わない。
アドガルム兵やシグルドの兵などに会う事を懸念していたがさっぱりだ。
「皆違う所を探しているのかしら……」
自分達のように闇雲に探すものではないから当然だろうが、こうも会わないと色々心配になる。
そんな中二人の後を一匹の蝶がついてきていた。
虹色に光るその蝶は二人に少し後ろをゆっくりと飛んでいるのだが、二人は気づいていない。
「そろそろ一度引き返さない?」
レナンの提案にミューズは頷いた。
結構奥まで歩いてきたので、だいぶ疲労も溜まってきている。
「そうしましょうか……」
さすがに考えが甘すぎたと落胆しながら二人は後ろを振り返る。
そしてそこにいたのは件の妖精であった。
「わざわざ人質になりに来てもらえて嬉しいよ」
そういう妖精の顔は邪悪なものだった。
「人質になんてならないわ、あなたを捕まえに来たのだから」
急な出現に二人は身を寄せ、後ずさる。
「ふふ、そんな事出来るわけないよ」
じりじりと妖精は二人に近付いていく。
「来ないで!」
ミューズが魔法を唱えようとするが、その前に妖精が放った風により大量の石礫が飛んでくる。
「きゃっ!」
咄嗟に二人は地に伏せ、その攻撃を躱すが、その隙に妖精は二人に迫る。
「君、魔法は使えるけれど実践経験ないでしょ? 隙が多いんだよね」
そう言って、ミューズに触れようとする。
「姿が変わればもう君の魔法なんて怖くない」
妖精の伸ばされた手から逃れるようにミューズは後ろに下がろうとするが、倒れたままでそれ程距離を取れない。
あと少しで触れられてしまうという時、虹色の蝶がミューズと妖精の間に入り込んできた。
そうして妖精の伸ばされた手に蝶が止まった瞬間、火花が散る!
「うわぁ!」
一瞬の事だけれど、驚いた妖精は思わず手を引いた。
その瞬間雄たけびと共に一匹の熊が駆け寄ってくる。
「熊?!」
本能的に二人は身を縮こませるが声を聞いて、緊張が若干解けた。
「二人に手を出すな!」
熊は走ってきた勢いを殺さずにそのまま妖精を殴り飛ばした。
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