第26話 同調と逃避

「私、最近すごい辛くて、楽器も辞めたいけどもう全国まで決まったから、途中で辞めにくくて」


 分かる。すごい分かる。多分骨折完治して練習に入れって言われたら、絶対にそれ思う。


「クラス一緒の子もおって、全国終わった後に辞めても感じ悪いし、もうどうしたらいいか」

 分かる。


 今守られる方やけど、大会終わって辞めたらみんな失望して、なんでか聞くやろな。それで納得出来ないやろから、余計なストレス負うやろな。絶対に嫌や、でも楽器もしんどい。


「僕は実は喘息治り気味やってんけど、棚西が落ちた時にラッキーや思ってさ。ホッとしたんや、やからそう思っても悪くない。逃げたい時は逃げるんや。自分を守るのが一番大事や」


 あれちょっとホンマのこといれたら、最もらしくなってきたぞ。


「だから逃げろ。三日くらい逃げても誰も怒る余裕ないやろ。自分を大切に出来るのは自分だけや」

 決まった。やったぜ、最高。


 ちょっと弱点はさらしたけど、これを外には言わんやろ。


 松山は早退した。お姉ちゃんの大学院博士課程前期の秋卒の卒業祝いで旅行についていくらしい。

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