第63話 告白

あかねさんたちの舞台を見たまま固まってしまいました。



「ローズちゃん 聞こえたよね 聞こえたよね」


しっかりと聞いてしまいましたよ。ダリアちゃん


――――


「イベントの後 時間をもらえませんか」


「はい この世界樹の下で待っています」


――――


並んで舞台を見ていたダリアちゃんも後ろが確認できません。

だって振り返った時に見たふたりと目が合ったら気まずいもん

ここは中学生らしく聞かなかったふりです。大人の対応です。



「きっとナイトくんからの告白だよね」


私もそう思う。それしかないよね。



「リリーちゃん 大丈夫かな。聖女さまにも知らせた方が良いかな」


聖女さまかぁ 怒ってるからなぁ あかねさんだったら知らせてもいいかも


「でも私たちが口を出すところじゃないよね。見守るしかないよね」


見守るしかないけど・・・ 何かしてあげたいって




あっ お客様です。


いらっしゃいませ こちらへどうぞ




§



「イベント終了30分前になったらオーダーストップします」



アリス店長さんの呼びかけに気が付けば終わりが見えてきました。


忙しかったけど楽しかったよぉ 終わっちゃうよぉ 明日もお優雅にいらっしゃいませしたいよぉ




「明日から学校があるからダメです。それに今日でお店もなくなっちゃうよ」


ダリアちゃん厳しいです。


こんなに立派なお店なのにもったいないよぉ


世界樹だってあんなに苦労したんだよ。聖女さまだって泣いちゃうよ。『世界樹持って帰るぅ』ってじたばたしちゃうよ。



「しませんよ」



わぁ 聖女さま いつの間に



「世界樹は立派に役目を果たしましたからね 休ませてあげましょう」



でもやっぱり寂しいよぉ



§



そしてついに来てしまいました。


最後のお客様をお見送りです。



「「「ありがとうございました」」」



みんな楽しそうだったなぁ よろこんでもらえたよね。


あかねさんクッキーも完売しました。

頑張って作ったクッキーを美味しいって言ってもらえるのがこんなにうれしいとは思わなかったよ。


誘ってくれた司書さんに感謝しなきゃ



お店の解体は明日 専門のスタッフさんが行ってくれるそうです。

危ないから私たちは立ち入り禁止

禁止されなくても授業があるから見られません。ちょっと残念 でも見ていたら泣いちゃうかも




§




最後にみんなお店の前に集合




お店の前に立てた可愛いイラスト入りメニュー黒板 

店名も入ったお店のシンボル


アリス店長さんがチョークで書いた力作です。



きゅっきゅっ 



布で拭きとってしまいました。


店名が消えちゃいました。メニューも消えちゃいました。お店がなくなっちゃいました。



アリス店長って切り替えが早いです。ローズちゃんなら30分くらい眺めてもまだ消せないと思う。

スタッフのみんなもちょっと寂しそう



もう片付けてしまうのかと思っていたらチョークを取り出してカリカリカリ


くるっと私たちへ向き直ってにっこり笑顔


「みんなぁ ありがとう またやろうね」



アリス店長の横には黒板いっぱいに描かれた 


『またね』



アリスお姉さんだからこのお店の店長が出来たんだなぁ

最後まで不思議なお姉さんでした。 




また来年もやりましょう。お優雅なローズちゃんは来年も登場です。



――――

――――


舞台ではグランドフィナーレ


大きなスクリーンには二日間の思い出をまとめた動画が流れています。

いつの間に撮っていたのですか


『ぷりぷりすいーと』も出てますよ。もちろんオタク仮面さんのカッコいいところもばっちりです。


私たちがお優雅にウエイトレスさんしている画像もありました。ちょっと恥ずかしいです。


あかねさんもアップで登場 にっこり笑顔です。みんなぁ 私のお姉さんなんだよ。ドヤッ


音楽演奏が一番多いです。こうやって見ると舞台の発表 半分も見てないや

動画配信してくれないかな 

ピエロのお兄さんにお願いしなきゃ



「さあ いよいよ最後となりました。みんなのちからが作ったみんなのお祭り フィナーレはこの曲だぁ」



『にんげんっていいな』

 


会場みんなで笑顔の大合唱 肩を組んで歌っているスタッフさんもいますよ。



~いいな いいな にぃんげんっていいな~


なんだか盛り上がってしまいます。


「まだまだ行くよぉ」


異常に盛り上がってます。こんなに盛り上がる曲だっけ



でんでんでんぐりかえって バイバイバイ♪


「ワンモア タァイイム」


でんでんでんぐりかえって バイバイバイ♪



「ラストォ」


でんでんでんぐりかえって バイバイバイ♪



舞台からキラキラテープがぶっしゅぅ 



拍手と笑顔のグランドフィナーレでした。



――――

――――


舞台の光が消えて静かな会場になりました。


お客さんの姿はありません。


世界樹だけがまだほんのりと光ってます。




スタッフさんも仮面を外しました。


cafeのみんなも仮面を外しました。



私もローズちゃんからしおんに戻ります。ばいばい ローズちゃん またね


たのしかったよ



    §    §    §



イベント『恋する仮面舞踏会』は終わりました。でもまだ終わらない人が居ます。


聖女ちゃんと騎士くん 


どうなるのでしょう。



「聖女ちゃんは告白されたらお付き合いするのかな ちょっと不安だよ」


トテちゃんもそう思うよね。さっき聖女ちゃんの微妙な顔してたよ。


聖女さまもすっごく怒ってるし聖女ちゃんも完全に許したわけじゃないと思う。


「あんなに何年もいちゃいちゃしていたのに付き合ってないって言い続けたんだよ。それに気持ちを傷つけた後だし・・・ 難しいかも」



そうだよね 嫌いだって断られることはないかもしれないけど、保留になりそう。


すぐに駆けつけてあげられるように近くに居ようね。



――――



なんとなく雰囲気を察して遠巻きに集まっているスタッフさん



世界樹の前では聖女ちゃんを抱きしめている聖女さま

何かをお話ししています。



スタッフテントの前にはリズさんとピエロさんが騎士くんを見守っています。



――――

――――



「何が起こるのかもう分かっていますね。聖女である前に女の子です。我慢はしなくても良いのですよ。心が動いた方へ進みなさい」


「はい 姉さま」


聖女見習いのドレスにケープ 髪もしっかりと梳りました。


まだ光の残る世界樹の前


スカートの前に手を重ね 少し俯いてその時を待ちます。



――――


「もう言うべきことは決まって居るみたいだね。僕からは何も言うことはないよ」


ピエロさんがにやりと笑います。



「良い顔をしていますね。あなたの決意 見せて頂きます」


リズさんが静かに笑います。



「行ってきます」


騎士くんは頭を下げて世界樹へと向き直ります。




周りで見ているスタッフさんは何も言いません。音も立てません。

世界樹へと 聖女ちゃんへと歩いて行く騎士くんを見守ります。


中には拳を強く握っているスタッフさんもいます。

胸に手を当てて泣きそうな顔をしているスタッフさんもいます。




騎士のコスチュームで身を固めた凜々しい姿


聖女ちゃんの前




聖女ちゃんは顔を上げて目を合わせます。

何も言いません。


待っています。



片膝をつき 聖女ちゃんを見上げる姿勢



迷いのない言の葉が響きます。




――――


「絶対の忠誠を『白百合の聖女』に捧げます。

 我が誓いを受け取ってもらえますか


 俺と付き合ってください」


――――


騎士の誓い

おとぎ話に出てくる騎士の誓いです。



誰かが息を呑む音


見つめ合うふたり



長い時間 いえ 数秒




聖女ちゃんが手を伸ばして肩に手を置きます。



――――


「その誓いお受けいたします。

 私をずっと守ってください」


――――



騎士くんは『聖女を守る騎士』となり


聖女ちゃんは『白百合の聖女』となりました。




立ち上がった騎士くん 世界樹の聖女さまに向きます。

白百合の聖女も 世界樹の聖女さまへ向き直ります。




世界樹の聖女さまは静かに頷き 笑顔を見せました。



「白百合の聖女さん 祈りなさい。あなたの祈りは必ず恋を叶えるのですよね」



少し驚いた顔を見せてから世界樹を向いて胸の前で手を組み祈りの姿勢


同じように世界樹へ向く騎士くん



世界樹へ祈る聖女さま そしてあかねさん

聖女見習いも祈ります。


その場に居るスタッフさん すべてが世界樹へ祈りを捧げます。




「この恋が永遠に続きますように」


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