第62話 ただいま

ナイトくん 戻ってきてくれました。


ちょうど良かったです。リリーちゃんを目当てにcafeへ来る男性が増えてちょっとドキドキだったのです。



「ご迷惑をおかけしました。仕事に戻ります」



走ってきたナイトくんをcafeの入り口で出迎えたのは、ちょっと嬉しそうなあかねさんと・・・聖女さま


絶対零度バージョンじゃないよね。反省したから怒っちゃだめですよ。



「期待してるわよ。ナイトくん」


「はい」



あかねさんの声に押されてリリーちゃんの所へ向かいます。


聖女さまは無言です。怒ってないよね。

表情もアルカイックスマイル・・・ではないです。  全然スマイルではないです。




ところでお仕事って聖女見習い専属警護だったよね。リリーちゃん専属警護じゃないよね。

まっすぐにリリーちゃんの所に向かうんですよ。


ここにもふたり可愛い聖女見習がいますよぉ


分かってましたけどね。ローズちゃんもダリアちゃんもわかってましたけどねっ




緊張して固まっているリリーちゃんの前に立つナイトくん

それでもきちんとリリーちゃんの顔を見て




「ただいま」


「おかえりなさい」




・・・夫婦でしょうか







すっごく心配してたのに一瞬で空気が戻っています。リリーちゃんは許してあげたのかな。


ちょっとだけいつものリリーちゃんではないように見えました。


ローズちゃんの女のカンです。ローズちゃんも大人ですからね。中学生にもなれば親友の恋心くらいわかっちゃいます。


そして周りの雰囲気もわかっちゃいます。


リリーちゃんを見ていた男性のがっかりとした空気 もう顔に書いてあります。



『なんだぁ もう付き合ってる彼がいたのかあ』って書いてありますよ。


がっかりしちゃいますよね。あの美少女ですよぉ 完璧美少女ですよぉ お付き合いしたかったですよね


それがですねぇ 実は




「まだお付き合いしているわけではないようですけどね」




聖女さま・・・ ここで言っちゃうのですか


なんだか微妙な雰囲気になっちゃいました。



あかねさぁん どぉしよぉ 聖女さま怒ってるよぉ これ怒ってるよね。



「リリーちゃんが泣いたことを無かったことにはさせたくないの 何も終わってはないのよ」


でも でも



「リリーちゃんは良く頑張ったの だからこれ以上頑張っちゃダメ 今度はナイトくんが頑張らなきゃ」


それじゃあ どうすれば



「それはね・・・ ないしょのひみつです」



あかねさん ちょっといじわるです。


――――

――――



「聖女ちゃんのライムID教えてよ」



リリーちゃんの連絡先を聞こうとしつこい男性が現れましたよ。高校生くらいだよね。



「申し訳ありません。私 ライムは使用しておりませんので」



うんうん 嘘は言ってませんよ。リリーちゃんが使っているのは『フェアリー』ですからね。


「うそだろっ ライム使ってるだろ」



「お客様 それ以上はご遠慮ください」


リリーちゃんのとなりに並んだのはナイトくん 毅然としています。騎士の正装が威圧感ありますよ。



「・・・そうだな わるかった」


お兄さん 引き下がってくれました。ナイトくん 立派にお仕事遂行中



「ありがとうございます」


「どういたしまして」



一言だけの会話でナイトくんはカウンター横の待機場所に戻ります。

カッコいい場面なのになんだかぎこちないです。今までのふたりではないですよ。


ナイトくんには頑張ってほしいけど何を頑張れば良いのか・・・



§



あかねさんと聖女さまは舞台出演の準備に行ってしまいました。


代わりにリズさんがお手伝いです。



「いらっしゃいませ どうぞこちらへ」


「お姫さまだぁ」


「愛らしい淑女ですね ありがとうございます」



小さな女の子には大人気のリズさんです。女の子なら一度は憧れる姿ですよねぇ

いっしょに記念写真なんて撮ってますよ。



「ローズさんも一緒に入ってくださいませ」


「お姫様いっぱいだぁ」



ローズちゃん お優雅に行ってまいります。おほほほ



§



「さあ プログラムも残り少なくなってきましたが、ここで話題のじゅうななさいペアが登場だ


アニメ『聖女の魔力は万能です』より聖女セイ・タカナシさんと魔導士アイラ・ミソノさん


バイオリンとピアノによるアニソンメドレー 魔力5割増しの演奏めったに聞けないよっ」



マイクを持つピエロさん あいかわらず絶好調です。





大きなピアノの前にはあかねさん じゃないや アイラさぁん 


がんばれぇ cafeから応援してますよぉ


聖女さまはバイオリン 今日は本番用バイオリンだからお高いらしいです。でもローズちゃんには練習用と同じに見えます。



まずは静かに『聖女の魔力は万能です』主題歌ブレッシング 


アイラさんのピアノが素敵です。

さすが私のお姉さんっ 


しっとりとした空気の中 拍手もさわわわとお上品 ぱちぱちって雰囲気じゃないです。



つぎの曲は聖女さまだけのバイオリン演奏みたい 曲の紹介もなく始まりましたよ。


しっとり静かなバイオリン独奏 お優雅です。えっとどこかで聞いたことあるけど・・・ 



あっ これアンパンな人のマーチだ 聖女さま おちゃめです。



しっとりシリーズのまま 推しちゃうアイドル 鬼退治な人 青いブタさん 有名なアニメの曲が次々と


アニソンメドレーなのにお優雅に聞こえます。



あかねさんの曲紹介も楽しいです。楽しいのですが、楽しい時間はあっという間に過ぎるのです。




「次が最後の曲になります」 「「「えええっ」」」


お約束ですよね。




「このふたりで定期的に演奏していますので、ご縁がありましたらどこかでお会いしましょう。


 私たちからのメッセージソング 聞いてください


 『聖女ちゃんは告らせたい』」



わっ 知っている人にはわかる直球メッセージソング



cafeではリリーちゃんが真っ赤になってふるふるしてます。



「姉さま 恥ずかしいです」


ふたりのお姉さまからメッセージ ちゃんと届いてますよ

まわりのお姉さまからも温かな視線が届いてます。

事情を知らない人でもわかっちゃいますよね。そうです。当事者がここに居ますよ。



そしてもう一人メッセージが届いた人が舞台をまっすぐに見ています。

目線の先には聖女さま


ナイトくんは何を感じて見ているんだろう。




演奏している聖女さまは怒っているようには見えません。笑顔で演奏しています。


聖女さまは何を考えているんだろう。




ぼぉっと聖女さまの様子を見ていたら演奏が終わってしまいました。


ドレスのスカートをつまんでお嬢さま挨拶をするあかねさんと聖女さま



静かな拍手がずっと続いています。






拍手の中 私のうしろからふたりの声が聞こえたような気がします。








「イベントの後 時間をもらえませんか」



「はい この世界樹の下で待っています」






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