第61話 痛いの痛いの飛んでけ

お客様が増えました。


大繁盛のcafe不思議のアリス


席はたくさん用意したのにいっぱいです。『ぷりぷりすいーと』効果すっごいです。




不穏な空気が漂ったこともありましたがアリス店長の活躍で雰囲気が戻りました。

『可愛いアリスちゃんセット』の注文に元気に答える店長さん


しかも会場に流れている音楽に合わせて踊りながら接客中


一瞬で場の雰囲気を変えてしまうのは特殊能力に違いありません。ローズちゃんの周りには異能者が集まるのですか



§



『みなさんがずっと笑顔でいられますように』



おばさまのテーブルで祈りのポーズをするのはダリアちゃん


トテトテとワゴンを押すダリアちゃんにおばさまハートはくぎ付けです。

みなさんダリアちゃんオリジナルの『聖女の祈り』にご満悦


「恋愛以外のお祈りはしてもらえるのかい」との声にすぐ対応したダリアちゃん

そこから評判が評判を呼びましてアイドルになってます。



「かわいいねぇ」「ほんとにねぇ」


おばさまにナデナデしてもらってますよ。なぜか撫でたくなりますよね。

ほっこりとした空気を振りまく『ちっちゃい聖女見習いさん』


撫でることができるアイドル爆誕です。



§



リリーちゃんも復帰してお仕事中


『ぷりぷりすいーと』の恋を叶えた可愛い聖女ちゃんとして一躍有名になりました。

コスプレショーが始まってからずっと祈りのポーズを崩さずに見守っていた姿が話題です。


いつの間にか「聖女見習いのリリーさん」ではなく「聖女ちゃん」と呼ばれてますよ。


せっかくイベント限定の名前を決めたのにいつもの『聖女ちゃん』に戻ってしまうのはちょっと残念

でも私はリリーちゃんって呼びますからね。私もダリアちゃんも限定の名前で頑張るのです。



華やかなお花 ローズ きっと私には似合わないけど嬉しいんだ


みんなからいっぱい『ローズちゃん』って呼んでもらうんだっ


だってあと数時間で使わなくなる名前だもん


大切な思い出になるといいな



――――

――――




「姉さま この子をお願いします」



リリーちゃんが手を引いて連れてきた女の子 さっきお店の入り口で転んじゃったのです。

うすいマットが敷いてあるのでけがは無いと思うけど驚いたのか大泣きです。



すぐにスタッフ本部席に連れて行った方が良いです。救急箱ありましたよ。なぜかポーションも並んでましたけど・・・



「けがは無いみたいね」


打ったと思われるひざを見て安心する聖女さま でも泣いちゃってますよ。



「大丈夫 姉さまが治してくれますよ」


女の子に優しく話すリリーちゃん 聖女さまって簡単に治しちゃいますか 

まさか看護師さんのコスプレしちゃいますか



正座するようにひざを折って女の子と目線を合わせる聖女さま


ゆっくりと頭をナデナデ


ちょっとだけ泣き止みました。もしかして今のが『聖女のナデナデ』ですか



包むようにひざに手を当てて軽く目を閉じます。

反対にリリーちゃんはじっと手を見ています。すっごく見ています。ガン見です。



『聖なる力よ 痛みを消し去れ ヒール』


聖女さまが小さな声で唱えると女の子泣き止みました。本当に泣き止みましたよ。なんだかきょとんとしています。



見ちゃいました。世界樹の時もすごかったけど目の前で治しちゃうのも驚きです。本当に治っちゃいました。



「もう痛くないよね 姉さまの術は特別ですからないしょのひみつですよ」



なぜかリリーちゃんがドヤ顔してます。


女の子はニコニコになって元気に遊びに行きました。もう転んじゃだめだからねぇ



あっ カンの良いローズちゃん 気が付いちゃいました。


学校でウワサになっているリリーちゃんの謎


リリーちゃんが何かをつぶやくと痛みが消えたりするウワサ

心がつらい時にリリーちゃんが胸に手を当てて何かをつぶやくと気持ちが楽になると言うウワサ



きっと聖女さまみたいに聖女の術を使ってたんだ・・・ 




「痛いときには『痛みを消し去れ』なんですね。体力が弱っているときの『癒しを』と使い分けます」


「相手をいたわる気持ちを忘れてはいけませんよ」




今度のテストに出るポイントを教えてもらう勢いで質問してますよ。リリーちゃん真面目ですからねぇ



・・・って聖女姉妹ですごいこと話してませんか 


ないしょのひみつを知ったローズちゃん 消されてしまいませんか




見なかったことにして逃げましょう。お仕事です。お優雅に お・し・ご・と♪



いらっしゃいませぇ



――――

――――



「お嬢 またやらかしたでしょ 聖女の術」


「だって可愛い妹の頼みは断れません」


cafeのカウンターに座るふたり 聖女さま怒られております。



「キラキラした目をして興奮してたわよ。あの女の子に何やったの」


「痛いの痛いの飛んでけって・・・ 聖女版で・・・」


「はぁ また妹の前だからってそんなことして」



「本人がすでに学校で聖女活動やってるみたいですから私がやったところで今更ではないでしょうか。それに私みたいな『なんちゃって聖女』とは違って彼女はみんなに認められて『聖女ちゃん』と呼ばれていますからね。私はそろそろ引退しても良いかしら」



「引退なんて出来るわけないでしょ 聖女姉妹で話題になったのだから最後まで付き合いなさい。それにお嬢は『世界樹の聖女さま』で地域に定着してるからね。自分で言いだしたわけじゃないでしょ あなたも認められた聖女なのよ」


「もう戻れない所まで来ちゃってるわね。どうしてあの時聖女なんて始めちゃったのかしら」


「妹の為でしょ」


「まあ それしかないですけど」



あの雨の日 子犬を抱きかかえて泣きながら玄関に立っていた彼女


安心させたくて笑顔でいてほしくて


妹の願いを全て叶える頼れるお姉さんで居たくて 私は聖女を選んだ




「『聖女』にあこがれて『姉さま』にあこがれて人を癒しているんでしょ 中学生になって変わったわね 立ち居振る舞いまでお嬢そっくりよ」


「小さなころから本質は変わってないわ あの優しさは本物よ 誰よりも優しいの」


「お嬢のシスコン ここに極まれり と言ったところかしら」


「事実だもの 世界で一番可愛くて優しい妹よ」



うっとりとした表情で語る聖女さまにあきれ顔


自慢話を止めるようにふたりのスマートフォンから同時に通知音



「リズさんからの連絡ね そろそろ騎士くん・・・ナイトくんが戻ってくるみたい もう怒っちゃだめよ 久しぶりに降臨した『絶対零度の雪姫』怖かったわ」 


「その名前やめてください アリスさんが勝手に言い出しただけですから みなさん面白がって広めていますよね」



「昔から妹のことになると手加減しないでしょ 今回の件でまた広まるわよ 『絶対零度の雪姫』さん」


「いやぁぁぁ」

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